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野球で、人を救おう

第1回 真のスーパースターの姿とは

 

 2億2000万円――。

 この金額を、たった1カ月で集めるとしたら、どのくらいの労力がいるでしょうか。「そんなお金、悪いことでもしなきゃ集められないよ」と思う人もいるかもしれません。

 でも、このような多額のお金が、実際に集まってしまったのです。しかも、みなさんが愛する、「野球」というスポーツを通して。もちろん、悪いことなんて一つもしていません。

 2013年4月15日、ボストンマラソンで爆弾テロ事件が発生しました。テロによる犠牲者は3名、負傷者は282名にものぼる惨事となり、容疑者が捕まるまでの5日間、ボストン市内には外出禁止令が敷かれるほどの緊急事態となりました。

 ボストン・レッドソックスはテロ発生時にはすでに本拠地フェンウェイ・パークでの試合を終え、遠征先のクリーブランドに向かっていました。チームがボストンに戻ってきた日の試合は中止。容疑者逮捕の翌日、20日に試合が再開されました。

 球団はその5日の間に、「B STRONG(強くあれ)」のロゴ入りチャリティーTシャツとキャップを制作。それらはすべて、試合再開日の開門時間までにフェンウェイ・パークに納品されました。通常のチームグッズよりも価格帯を低く設定したにもかかわらず、これらのチャリティーグッズは約1カ月後の5月26日時点で約120万ドル(当時のレートで1億2000万円)の収益を生み出していました。

▲「B STRONG」のロゴとユニフォームの胸レターを「BOSTON」に代えて戦ったレッドソックス (C)BOSTON RED SOX



 球団は試合再開日に追悼セレモニーも実施。選手たちは、ホームゲームのユニフォームの文字を通常の「RED SOX」から「BOSTON」に代えて着用し、追悼試合を行いました。そのユニフォームをはじめとする使用済みグッズはチャリティーオークションにかけられ、その収益は約4万ドル(400万円)になりました。

 これらの収益はすべて、テロ被害者支援基金「ワン・ファンド・ボストン」を通じて負傷者や犠牲者の遺族に寄付されました。さらに、レッドソックス球団が60万ドル(約6000万円)、選手会とメジャー・リーグ機構があわせて35万ドル(約3500万円)を同基金に寄付。結果として、わずか1カ月で220万ドル(約2億2000万円)という多額の寄付金が、野球というスポーツを通して集まったことになるのです。

 この一連の動きにおいて、着目すべき点が二つあります。一つはレッドソックスという球団が、このような緊急事態に対して非常に迅速にアクションを起こしたことです。チャリティーロゴのデザイン、グッズの制作、さらに追悼セレモニーの準備。これらすべてをたった5日間で、しかも経験したことのない緊急事態の下で行うのは、決して簡単なことではないはずです。

 もう一つは、これらの寄付金が、選手、チーム、ファンが協力し合って生み出したものであるということです。選手は選手会を通して金銭を寄付するだけでなく、使用済みアイテムも提供。チームは低価格でグッズを販売。ファンはそれらを「手に入れる」という行為によって支援に参加することができました。これらの活動を通して、選手、チーム、ファンに一体感が生まれたことは間違いないでしょう。

 この年レッドソックスはワールドチャンピオンに輝きました。選手が、“選手であること”の利点を最大限に生かして支援活動を行い、テロの被害者をサポートし、さらにチャンピオンになって街の人々を勇気づけた。世界一に輝いた日、彼らは最高にカッコいい、真のスーパースターたちでした。
文=岡田真理
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海外や日本の事例を基に、野球による貢献を考える短期集中連載。

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