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野球で、人を救おう

第2回 プロ野球は「ニーズ」になれるのか

 

 最近は日本のプロ野球界でも社会貢献活動に積極的に取り組む球団が増えています。例えば、北海道日本ハムファイターズでは「ファイターズ基金」が設立され、スポーツや自然環境における支援活動が実施されています。また、埼玉西武ライオンズでも「ライオンズこども基金」という子ども向けの支援活動が行われています。選手の影響力、球団の組織力、野球ファンのパワーを一体化させて行うこのような取り組みは、今後野球界がさらに力を入れていくべき事項の一つと言えるでしょう。

 この連載の第1回では、昨年起こったボストンマラソン爆弾テロ事件の被害者に対して、ボストンを本拠地とするレッドソックスおよびメジャー・リーグがどのような働きかけを行ったかを紹介しました。そのレッドソックスにも、「レッドソックス・ファウンデーション」というNPO機関が、球団内の一つの部門として存在しています。

 レッドソックス・ファウンデーションができたのは2000年代に入ってからのことですが、チームとチャリティー活動の歴史は60年ほど前にさかのぼります。きっかけは、ジミー君という小児ガンの男の子の支援を球団が行ったことでした。のちに「ジミー・ファンド」という小児ガン支援団体が設立されますが、球団は今でも毎年のように同団体主催のチャリティーラジオ番組に協力しています。視聴者が番組に電話をかけると寄付ができる仕組みで、選手や選手の家族が率先して電話の応対を行っています。

 現在のレッドソックス・ファウンデーションでは、ジミー・ファンド以外に4つのプログラムが実施されています。

 経済的に困難で十分な医療が受けられない人や薬物中毒の家族を持つ人などへのサポートを行う「ディモティックセンター」、経済的な事情で教育を受けられない子どものために奨学金を提供する「スカラーシッププログラム」、戦争で負傷したり精神的なダメージを負ったりした兵士たちの生活をサポートする「ホームベースプログラム」、子どもが非行に走らないように野球の機会を提供する「RBIプログラム」(野球の技術を教えるというよりも、野球をやることにエネルギーを向けさせることで非行に走らせないようにする取り組み)がそれにあたりますが、ジミー・ファンドも含め、どれも「野球振興」には直接あてはまりません。

▲『ジミー・ファンド』の活動で病院訪問するレッドソックス時代のジャロッド・サルタラマッキア選手(C)BOSTON RED SOX



 日本で野球選手の社会貢献活動というと、子どもたちに向けた野球教室や野球用具の提供など、野球振興、スポーツ振興にかかわることがもっとも幅広く行われているかと思います。ところが、レッドソックスをはじめとするメジャー・リーグの球団は、野球とは直接関係ない一般市民への支援に、野球振興と同じくらい力を注いでいるのです。

 プロ野球チームの支援によって大学に行けることになった、プロ野球選手が支援してくれたから適切な医療を受けることができた。そんな人々が増えていけば、野球の価値はもっと高まるのではないでしょうか。野球によって救われる人が増えれば増えるほど、野球は日本人にとって「なくてはならない存在」になるのだと思います。そうなれば、単なる「スポーツ競技」や「娯楽」の域を超越した存在になるでしょう。

 果たして、野球は人々の「ニーズ」の域に達することができるのか。それが、今後のプロ野球に課せられた使命ではないかと感じています。
文=岡田真理
野球で、人を救おう

野球で、人を救おう

海外や日本の事例を基に、野球による貢献を考える短期集中連載。

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