週刊ベースボールONLINE

岡田彰布コラム

投球術に長けた投手との対決は楽しかったわ。18.44メートルの間での駆け引き、これがプロ野球の醍醐味やな

 

現役選手が選んだ投手たち。オレも結果に異論はなし


 プロ野球は、最初の節目を迎えた。交流戦のスタートだ。オレは阪神オリックスの監督時代、交流戦の成績がかなりよかったと記憶している。だから、今週号は絶対に交流戦にまつわる話を書く……と決めていたのに、編集部からの連絡は……。

「交流戦に関することは来週でいいです。今週は投手について。それも投球術に関してのことで、よろしくお願いします」ときたもんだ。

 分かりました、分かりましたよ。オレはすっかり従順になってますから、ね。ということで、編集部から現役選手とコーチのアンケート結果を聞いた。誰がNo.1の投球術か、というもので、1位が中日吉見(一起)で2位がオリックスの金子千尋とのことだった。オレ的には異論はないな。やはり感じることは同じということよ。

 オレは野手だから、その目線で考えると、投球術に長けた投手には絶対的武器がある。その武器も3つが必要なのだ。

 まず(1)はコントロール

 これが絶対条件なのだ。アバウトなコントロールではダメ。狙ったコース、捕手が構えたミットに、ビシッ、ビシッと決めることができる制球。それくらいの精度の高さが求められる。

 そして(2)が心理面の考察だ。

 対峙する打者が、どういう精神状態なのか。何を狙い、どういうボールを待っているのか。それを見極め、その逆を攻めたり、打ち気をそらしたり。それができるのが投球術だと思うんよね。

 それで(3)はコントロールの延長上にあるストライクとボール球の出し入れができるかどうか、だ。

 ストライクばかり投げていたら、いくらコントロールがよくても限界がある。いかにボール球を有効に使えるか。打ち気がない、と判断すれば大胆にストライクを取り、そこからボール球を効果的に使って打ち取っていく。いかにも投球術を備えた投手の典型的な姿が、そこにある、ってわけよ。

 中日の吉見は対戦相手として見てきたが、金子千尋に関しては、オリックス監督時代に、コイツはいい投手や!とずっと感じていたわ。評価すれば、いまの球界ではNo.1の投手。そこまでオレは金子の能力を認めている。今年はオフに手術した影響もあって、まだまだ目立った働きはできていないが、彼の強みはなんといっても、まず「力勝負」できるという点。しなやかなフォームから、キレのある真っすぐを投げる。金子の直球はキレとスピード、これが素晴らしいから、変化球が生きる。そして変化球もどれほどの球種があるのか……というくらい多彩なのだ。それもすべてが一級品の球種ばかりである。

 こういう投手をこれまで、あまり見たことはない。それほど力と技を兼ね備えた投手なのだが、そこにプラスして彼には投球術という絶対の武器がある。オレはオリックス時代、ベンチからマウンドを見ていた。金子が投げているときは、安心していたもんよ。とにかく理にかなったピッチングを続ける。オレが野手の感覚で「ここはストライクは危険」……と感じると、金子は間違いなくストライクからボールになる球を投げていたわ。ボールからボールではない。ストライクからボールになる球よ。これを使えない投手は、いまの球界では勝てない。球界用語でいうボールの出し入れ……っていうヤツやな。それが金子は完ぺきやった。だから監督時代はアイツが打たれる……というイメージがわかなかったほどだからね。

オリックス監督時代にエースやった金子は投球術に長けた投手やった。監督としてはベンチで安心して見てられたわ[写真=佐藤真一]


投球術もあれば打撃術もある。オレはその打撃術に長けていたわ


 ご存じのようにオレはバッターやったから、投手の投球術を打者に当てはめたら、どういうことか、と考えた。打者の場合、「打撃術」の高度なバッターは、まず選球眼がいいこと。ストライク、ボールの見極めができることが前提になるやろな。そして駆け引き、読みに長けていること。

 投手が相手打者の打ち気をそらしたりするように、バッターも投手の心理を読む。初球からフルスイングできるから、いい打者というけど、オレはどのカウントになっても、駆け引きに勝ち、読みを当てる打者が、やはり打撃術の持ち主と思っている。そこで、少し自慢タイムに入るが、オレが現役時代、データマニア、記録マニアのファンに教えてもらったことがある。それによると2ストライクと追い込まれてから、ホームランを一番打った打者は誰か分かりますか?そのファンいわく「岡田さん、アナタなんですよ」とのことだった。

 それが正確なものかどうか、なかなかマニアックなデータなので、分からないが、確かに追い込まれてから打った記憶はたくさんある。追い込まれたら、どんな球にでも対応しないといけないが、オレはその対応の中で、読みを利かせて対処した、と思っている。だから追い込まれてからの本塁打の多さにつながっているのだろうが、これも投球術と同等の打撃術と、オレは自負しているんです。

 そういう自慢が入りつつ、アンケートでは過去のOB投手で、誰が投球術No.1かも調べたとのこと。その結果を聞く前に、オレはオレなりに予想してみた。真っ先に名前が浮かんだのは桑田真澄やったけど、アンケート結果も桑田。やはり桑田=投球術というイメージが出来上がっていたのだろうな。あまり体力的にも目立たない桑田が、そこまで投球術のトップに評されるのは、彼の持つ「察する能力」の鋭さだったと思う。打者が何を考え、どういう狙いを持って打席に立っているか。動き、表情、状況を頭に入れ、それらすべての裏をかく投球ができる。それが桑田の真骨頂だったし、ああいう投手はなかなか現れないと思うよ。もちろん投手だけでなく、バッテリーでの共同作業だから、捕手にもかなりの能力が求められるわけよね。

 いずれにしても投球術に長けた投手と対戦するのは楽しかった。18.44メートルの間での駆け引きなのだ。これがプロ野球の醍醐味とオレはいまなお、感じているんですわ。(デイリースポーツ評論家)

PROFILE
おかだ・あきのぶ●1957年11月25日生まれ。大阪府出身。北陽高では1年夏の甲子園に出場し、早大では東京六大学リーグ歴代1位の打率(.379)と打点(81)をマーク。80年ドラフト1位で阪神に入団。1年目からレギュラーとして新人王を獲得。21年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成した85年は五番打者としてベストナイン、ゴールデングラブ賞。94年にオリックスへ移籍し、95年限りで現役引退。通算1639試合、打率.277、247本塁打、836打点。オリックスで2年間指導の後、98年に阪神復帰。二軍監督などを経て、04年から08年まで監督を務め、05年はリーグ優勝に導いた。09年から12年はオリックスの監督として指揮を執り、13年からは野球評論家として精力的に活動している。
岡田彰布のそらそうよ

岡田彰布のそらそうよ

選手・監督してプロ野球で大きな輝きを放った岡田彰布の連載コラム。岡田節がプロ野球界に炸裂。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング