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秋山翔吾「チームに勢いをもたらす」 今季のブレークを予感させた大学時代の覚醒

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

どのような試合展開でも集中した打撃を見せる秋山。今季は8月11日現在で166安打。22度の猛打賞を達成している



がむしゃらさ、泥臭さが感じられなかった大学時代


 今、パ・リーグでは88年生まれが熱い。首位打者を争う秋山翔吾(埼玉西武)と柳田悠岐(福岡ソフトバンク)だ。8月11日現在、秋山は.376、柳田は.366。ソフトバンクが頭ひとつ抜けた優勝争いよりも、2人の凌ぎ合いの方が気になるというファンも少なくないのではないか。

 特に、今季はまさに「大ブレーク」と言っても過言ではない活躍を見せているのが、秋山だ。開幕スタメン入りするも、打率1割台と絶不調に陥り、4月に二軍行きを命じられた昨年からはとても想像がつかないほど、ヒットを量産している。これだけのアベレージを残す打者がトップバッターというのは、相手ピッチャーはさぞかし嫌であろう。

 さて、秋山と言えばコメントを聞いてもわかる通り、「真面目」を絵に描いたような性格の持ち主だ。その真面目さは筋金入りのようで、八戸大学時代の4年間、監督として秋山を指導した藤木豊氏(現明秀学園日立高校野球部コーチ)によれば、練習態度の良さはもちろん、一度も怠慢プレーを見たことがないという。グラウンドを離れても、生活面で乱れることは一切なかったというのだ。

 そんな秋山に少しは遊び心を持って欲しいという願いをこめて「ウナギイヌ」という愛称をつけたのは藤木氏だった。

「でも、まったく変わらなったですけどね(笑)。どんなにいじっても、あの真面目さはとれませんでしたよ。親御さんのしつけの賜物でしょうね」

 しかし、こと野球選手としては、物足りなさも感じていたという。

「確かに練習態度もしっかりしていましたし、取り組む姿勢はこちらが頭が下がるくらいでした。超がつくほどの優等生でしたね。でも、私としては物足りなさを感じていた。がむしゃらさ、泥臭さが欠けていたんです。だから打席でも勝負する姿勢が伝わってこない。たとえ秋山がヒットを打ったとしても、チームに勢いをもたらす感じがなかったんです」

 そんな秋山に変化を感じたのは3年秋のリーグ戦を終え、最終学年として新チームがスタートしてからだった。

 横浜創学館高校時代から強肩・俊足の選手としてプロのスカウトからも高い評価を得ていた秋山は、大学でも1年時から中心選手として活躍し、春秋連続で3割台後半の高打率をマークしてベストナインに輝いた。

 ところが、2年春は.243。秋こそ.270と少し持ち直したものの、3年春は.226にまで打率は落ち込んだ。この時、藤木氏は秋山に「自覚と責任」をもつよう促したという。

「それまで秋山は『夢はプロ』と言っていたんです。そこで私は秋山にこう言いました。夢とか目標ではなく、『オレはプロに行って活躍する』と堂々と断言したらどうだ、と。逃げ道をつくらず、『何が何でも行くんだ』と自分自身に責任を持て、と言ったんです」

 そんな恩師の言葉に秋山は、ようやく目覚めたに違いない。その年の秋、打率.353をマークし、4季ぶりとなるベストナインを受賞。そしてオフ、最終学年として新チームがスタートすると、打席に立つの秋山の目つきが変わったという。

 藤木氏は言う。「一球たりともムダにはしない、という気迫がみなぎっていました。それまで以上に集中力が増していましたね」

 4年春、秋山は打率.486、14打点をマークし、優秀選手、最多打点、ベストナインの3冠に輝いた。「4年生の時にはたとえ凡打でも、チームに勢いをもたらすバッターになっていました」

 それを聞いて、思い出されたシーンがあった。ちょうど1カ月前の7月14日、連続安打の日本新記録を目前にしながら、個人の記録よりもチームの一員としての役割を優先して四球を選んだ打席だ。中村剛也のサヨナラ3ランを呼び込む「フォア・ザ・チーム」の四球として、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。

 これこそ、秋山が今や西武においても、ヒットの有無にかかわらず、チームに勢いをもたらすバッターになっていることを示していたシーンではなかったか。秋山は、恩師が期待した通りのプレーヤーとなっている。

 藤木氏の目には、「秋山翔吾という人間が凝縮されたシーン」に映ったという。「負ければ終わりのアマチュアの世界であれば、わかりますよ。でも、プロは違いますからね。しかも、個人の記録もプロにとっては非常に重要です。ましてや日本新記録を目の前にしてですからね。その状況で迷うことなく四球を選ぶ秋山を、野球選手としてというよりも、ひとりの人間として尊敬しますね」

 そして藤木氏の頭にはある言葉が浮かんだ。

「百万人いけども我いかず」

 藤木コーチの大学時代の恩師が座右の銘としていた言葉だ。なるほど、どんな環境に置かれても決してブレることのない秋山にはピッタリだ。これからも頑なに真面目一本の道を歩んでいくに違いない。
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