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柳田悠岐 プロ入り前から育まれてきたフルスイング

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

柳田の豪快なフルスイングはプロ入り前から長所として育まれてきた



小学生の頃に誕生したフルスイング打法


 いよいよ、史上9人目となるトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)プレーヤーの誕生が、現実味を帯びてきた。福岡ソフトバンク柳田悠岐だ。25日現在、打率3割6分7厘、26本塁打、26盗塁。すべて射程圏内に入っている。

 柳田と言えば、やはりフルスイングだろう。たとえ結果が三振や凡打に終わったとしても、あれだけ思い切りバットを振られれば、相手ピッチャーが恐れおののくのも無理はない。

 そのフルスイングの原型は、小学校3年から6年までの4年間所属していた広島県の西風五月が丘少年野球クラブ時代につくられたものだ。当時、コーチとして子どもたちの指導にあたっていた佐藤賢治現監督はこう語っている。

「今でも変わっていませんが、チーム方針としてバットを思いきり振ることが良しとされているんです。一番ダメなのは三振を怖がって、見逃したり、中途半端なスイングをすること。逆に、空振りをしても絶対に叱ったりはしません。『今のスイングは良かったぞ!』と褒めるんです。柳田にも同じように指導していましたから、それが少なからず今のバッティングにつながっているのかなと思います」

 広島経済大学時代、監督として指導した龍憲一氏が初めて柳田を見た時に最も印象が強かったのも、やはり足の速さ、肩の強さに加えて、バットがしっかり振れていることだったという。

「入学当時は上背はありましたが、まだ体はできておらず、どちらかというとスラッとした体格でしたから、バンバン打つというわけではなかったんです。ただ、しっかりとバットが振れていましたし、スイングの速さは飛び抜けていましたね。フルスイングしても下半身が崩れなかった。これは足腰の強い選手だなと思いましたよ」

 フルスイングという柳田の特徴は、プロ入りしてからも、長所として伸ばされてきた。それが現在の活躍を後押ししていると龍氏は言う。

「柳田のアッパー気味のスイングは、プロの指導者にしてみたら直したくなる人もいると思うんです。私自身も大学時代、技術的にはどうかなと思ったこともありました。でも、あれだけ振れていますし、放っておいてもリーグ戦で打率4割打っていましたから、とにかくしっかりと振ることだけはさせていたんです。以前、ソフトバンクのキャンプ地を訪れた際、王(貞治)会長に『大学時代はバットを振るということだけしか教えていないんです』と言ったことがあるんです。そしたら王会長は『それが一番大事ですから』と言ってくれました。改めて柳田の良さを引き出し、伸ばしてくれるいい球団に入ったなぁと思いました。他の球団に入っていたら、もしかしたら直されていたかもしれませんからね」

 柳田は昨季、プロ4年目にして初めて全試合出場を果たし、打率3割1分7厘、33盗塁をマーク。クライマックスシリーズ、日本シリーズでも全試合に出場し、日本一に大きく貢献した。初めてゴールデングラブ賞、ベストナインも受賞するなど、柳田にとって大きく飛躍したシーズンとなった。柳田自身、手応えと自信をつかんだのだろう。昨年の暮れ、龍氏に初めてこう宣言したという。

「来年は3割30本30盗塁、やりますよ」

 果たして、有言実行となるか。佳境に入ったペナントレース、柳田から目が離せない。
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