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恩師が語る高校時代

「見た瞬間に鳥肌が立った…」巨人・立岡宗一郎の恩師が語る野手としての凄み

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

巨人のリードオフマンとしてチームを活性化させている立岡



中学生で既に完成されていたベースランニングの速さ


 今や巨人の不動の1番となりつつあるのが、プロ7年目、25歳の立岡宗一郎だ。「宗一郎」という名前は、本田宗一郎(故人)を尊敬する父親が「世界に羽ばたいてほしい」という願いをこめてつけたそうだ。

 立岡は鎮西高校(熊本)から2009年にドラフト2位で福岡ソフトバンクに入団した。高校時代から走攻守三拍子揃った選手として注目され、同郷の秋山幸二2世と謳われた。しかし、プロ入り後はなかなか芽が出なかった。3年間で一軍での出場はわずか1試合。4年目の2012年6月、交換トレードで巨人に移籍したことが、彼にとって大きな転機となったことは言うまでもない。

「やっと出てきてくれた……」

 立岡の実力を最も知る人物は、そう言って、現在の活躍を喜んでいる。鎮西高の江上寛恭監督だ。野手としての才能をいち早く見出したのは、江上監督である。

 江上監督が初めて立岡を目にしたのは、中学2年の秋の県大会だった。うわさを耳にして視察に訪れたのだ。その時の衝撃は今でも鮮明に覚えているという。

「見た瞬間、鳥肌がたちましたよ。当時、彼はエースとして投げていたのですが、ボールのスピードも、パワーもケタ違い。身長も170センチ半ばはあったので、中学生の中に1人社会人がいるような感じでした。こんな選手が世の中にいるんだなと思いましたよ」

 当時、立岡には県内外問わず、多くの高校から声がかかった。その数、40はあったという。あまりのライバルの多さに、江上監督は「うちには来てくれないだろう」と半ば諦めていたという。

 しかし、立岡が選んだのは鎮西高だった。受験の申し込みが届いた時、江上監督は「奇跡が起きた」と驚いたという。野球のみならず成績優秀だったという立岡は、見事試験をパスし、鎮西高野球部の一員となった。

 それにしてもなぜ、立岡は鎮西高を選んだのか。理由のひとつは、唯一「投手」としてではなく「野手」としてスカウトしたのが鎮西高だったからだ。

「初めて見た試合で、確かにピッチャーとしてもすごかったんです。おそらく140キロは出ていたんじゃないかな。マウンド姿も落ち着いていて、素晴らしかった。でも、その試合で私が印象に残ったのは、並外れた打力と走力だったんです。彼はその試合で左中間にホームランを打ったのですが、打球は柵を越えてしまったんです。さらに次の打席でレフト前にヒットを放ったのですが、ふつうなら単打のところを、彼は二塁打にしてしまった。ベースランニングの速さはとんでもなかったですよ。今すぐにでも社会人のトップチームで通用するんじゃないかと思ったくらいです。それで、野手として魅力を感じたんです」

 その頃、西岡剛(当時千葉ロッテ、現阪神)に憧れていた立岡は、高校では野手でいきたいと考えていた。だからこそ、野手としてスカウトした江上監督の下で野球をやりたいと鎮西高を選んだのだ。

 さて現在、左打ちの立岡だが、プロ入り当初は右打ちだった。左に転向したのは、巨人に移籍した直後に左肘の靭帯を断裂したことで、右では打てなくなったからだ。右から左に転向して結果を残すには時間を要するのがふつうだろう。ところが、立岡はケガから復帰後、すぐに成績を残している。実は、高校時代にその理由が隠されていた。

 前述した通り、西岡に憧れていた立岡は、中学時代から遊びで左打ちをしていた。そして高校入学後はスイッチヒッターをやりたい、と江上監督に申し出ていたという。何でも器用にこなしてしまう立岡は、確かに左でも十分な力を持っていた。しかし、江上監督は賛成しなかった。

「入学直後は好きにやらせていたのですが、もう1年の頃から打てないピッチャーはいませんでしたからね。だから私としては右でさらにレベルアップさせて、ゆくゆくは逆方向にもホームランが打てるような、それこそトリプルスリーを狙えるような選手に育てたいと思ったんです。本人も納得して、右で打っていたのですが、ただオフ期間中だけは左でもスイング練習をさせていたんです。それは右ばかりで打っていると、筋肉がそっちに偏ってしまって、腰痛の原因にもなる。だから、ケガの予防策として左で振らせていました」

 それが今、活かされているというわけである。

 とはいえ、努力なくして今の立岡はない。左打ちに転向したオフ、江上監督は立岡の掌を見て涙が出そうになったという。

「いくつものタコができていて、追い込まれながら、必死で努力していることがすぐにわかりました」

 1日現在、70試合に出場して打率3割3分9厘、12打点、13盗塁。優勝争いが激しさを増す中、立岡の活躍はチームに活力を与えているに違いない。
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