週刊ベースボールONLINE

Webオリジナルコラム

「何か持っている子」高校時代の恩師が驚いた高橋光成の“スイッチ”

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

今季の成績は7試合5勝2敗0H0S、防御率3.47(9月23日現在)



いつどのタイミングで入るかわからない“スイッチ”


 後半に入って台頭してきたのが、埼玉西武の高卒ルーキー高橋光成だ。8月2日に一軍に昇格すると、プロ初先発は黒星を喫したものの、登板2試合目から5連勝。8月だけで4勝をマークし、23日の千葉ロッテ戦では高卒ルーキーとしては史上20人目となる完封勝利も達成。両リーグ通じて史上最年少での月間MVPに輝いた。

 残念ながら9月17日の福岡ソフトバンク戦では4回3失点で降板し、1999年の松坂大輔(現ソフトバンク)以来となる高卒ルーキーでの6連勝には至らなかったものの、優勝マジック1の球団との大事な試合に先発に抜擢されたこと自体、高卒ルーキーとしてはある意味、快挙と言ってもいいのではないだろうか。いずれにせよ、首脳陣からの期待と信頼の大きさがどれほどかがうかがい知れる。

 さて、高橋と言えば夏の甲子園での活躍を今も鮮明に覚えている野球ファンは少なくないだろう。2年前の2013年、全国高等学校野球選手権で2年生エースとして全6試合を投げ、前橋育英高校を初優勝に導いた。

 高校3年間、高橋を指導した荒井直樹監督は優勝した要因をこう語る。

「光成の一つ上の学年にはピッチャーが不在でしたから、みんな彼のことをすごく大事にしたんです。光成もそれがわかっていましたから、『3年生のために』という気持ちがすごく強かった。そういう3年生との結びつきが、いいチーム―ワークを生み、優勝につながったのだと思います」

 群馬県沼田市の山間部で生まれ育った高橋は、荒井監督曰く「大自然の中で育った純朴な少年」だという。

「今、2年生に光成の弟(亮成)がいて、彼も野球部に所属しているんです。その彼が言うには、子どもの頃は銛で魚を捕まえに行くような本格的な川遊びをしたり、秋から冬にかけては猿を追いかけて遊んでいたそうなんです。そんな純朴さは高校に入ってからも変わらなかったですね。いつだったか、冬に大雪が降った年、ふと見ると寮の前の駐車場で、光成が小学生と雪遊びをしているんです。私が声をかけたら『小学生に遊んでもらっているんです!』って、そりゃもう楽しそうに言うんですよ。今もそういうところは変わっていないと思いますよ」

 そんな高橋には、いつどのタイミングで入るかわからない“スイッチ”があるという。マウンド上でそのスイッチが入ると、周囲が驚くほどのピッチングをするのだ。そのスイッチが入ったのが、高校2年の夏だった。

 実はその年の春の関東大会で、高橋は背中を痛めている。そのため、夏の県予選の初戦は2番手のピッチャーが先発し、高橋はリリーフで2イニングを投げたのみ。その時、下半身が使えず手投げになっている高橋のピッチングを見て、荒井監督は高橋ではなく、2番手のピッチャーを軸に県大会を戦わなければいけないだろうと考えていた。その後も、決して本調子ではなかったという。

ところが、決勝で完封劇を披露。しかも最後の打者を見逃し三振に仕留めたラスト1球は、それまでの自己最速を4キロも上回る148キロのストレートだった。

「後で振り返ってみると、あの時、彼の“スイッチ”が入ったんでしょうね」

と言う荒井監督の言葉通り、甲子園に入ってからも高橋の調子はすこぶる良く、初戦の岩国商業戦では歴代2位となる9者連続奪三振をマークし、完封勝ちした。県大会から彼のピッチングを見てきた地元記者は、荒井監督に「高橋君、何かあったんですか?」と聞くほど、その変化に驚いていたという。

 その後の活躍は周知の通りで、高橋は全6試合に投げ、そのうち5試合を完投、2試合を完封し、前橋育英の初優勝に大きく貢献した。

 プロに入った今年、高橋の“スイッチ”が入ったのが、8月9日のオリックス戦だったのだろう。その1週間前のプロデビュー戦では、2回に1死から2者連続四球とヒットで満塁とすると押し出し死球で1失点。さらに4回にはヒットと四球で無死満塁とピンチを招くと、2点タイムリーを浴びて降板。結局、4回途中4失点で敗戦投手となった。

 ところが、9日は一転、6回途中まで投げて1安打無失点の快投を披露し、プロ初勝利を挙げた。高校時代同様、一度スイッチが入ると、その後も続くのが高橋だ。4試合目となった23日にはプロ初完投・初完封。この活躍に、荒井監督も驚きを隠せなかったようだ。

「実は一度、イースタンリーグでの試合を観に行ったことがあるんです。その時はコントロールに苦しんでいました。成績を見ても、あまりいい数字が並んでいなかったので、これは厳しいかなと思っていたんです。ところが、チーム事情もあったのだと思いますが、運よく8月に一軍に昇格し、これだけの活躍をしているんですからね。やっぱり、何か持っている子なんでしょうね」

 さて、再び高橋の“スイッチ”が入るのはいつなのだろうか。目下、ロッテとクライマックス・シリーズ出場を争っている西武にとっては、早めの“スイッチ・オン”が待たれる。
Webオリジナル

Webオリジナル

プロ・アマ問わず本誌未掲載の選手や球団、事象を掘り下げる読み物。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング