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広島6位 仲尾次オスカル 2人の監督が見た才能と将来性

ブラジルの高校を卒業後、栃木県の白鴎大学に進学。その後Hondaへ入社し、今秋のドラフトで広島に6位指名された

 

独特なアーム投げから素晴らしい球を放っていた


 今年のドラフト会議で3度目の正直で、ようやくプロの道を切り拓くことができたのは、広島に6位指名された仲尾次オスカル(Honda)だ。プロ志望届を出した大学時代、そして社会人2年目の昨年は、ドラフトで彼の名前が呼ばれることはなかった。2度も悔しい思いをしてきた分、喜びも一入だったに違いない。

 ブラジル・サンパウロ出身のオスカルは、高校卒業後、白鴎大学での進学を機に来日した。同大の藤倉多祐監督は、入学当初の印象についてこう語る。

「体の線が細く、小さいなという感じでした。ただ、左ピッチャーでしたから、特に体が小さいからと言って気になったということではなかったですね。それよりも高校時代から国際大会の経験も豊富と聞いていましたので、どれだけやれるか楽しみな方が大きかったです」

 1年春からリーグ戦に登板したオスカルが、プロのスカウトの目にも注目されるようになったのが3年の時だった。トレーニングによって体力や筋力がアップしたことで、もともと良かったコントロールに加え、スピードやキレが出てきたのだ。入学当初130キロ前半だったストレートは、3年時には140キロを越えていた。しかし、何より良かったのがキレだった。藤倉監督の言葉を借りれば、「手元でギュンと伸び、140キロそこそこでも、バッターにしてみたら145キロくらいに感じる」ほど、ボールにキレがあったのだ。

 そのボールにほれ込んだのが、Hondaの長谷川寿監督だった。当時、オスカルの1学年上には、岡島豪郎(東北楽天)がいた。その岡島を視察に行った際、オスカルのピッチングを目にしたのだ。

「独特なアーム投げではあったものの、左ピッチャーで低めにコントロールされていたし、スピードも140キロは超えていた。真っすぐにキレがあって、だからこそスライダーなど変化球でボール球を振らすこともできていた。ひと目見て、いいピッチャーだなと思いましたよ」

 この時、藤倉、長谷川の両監督ともに「来年のドラフトでの指名は間違いないな」と思っていた。

 ところが翌年、4年となったオスカルは別人になっていた。スピードは140キロにも満たず、キレもなかった。

「どうしたんだ?」
 藤倉監督が聞いても、オスカルは首をかしげるばかりで、何が原因なのかわからない様子だったという。

「彼はもともとスロースターターなので、正直春はそこまで心配していなかったんです。ところが、秋になっても前年のようなボールには戻らなかった。今考えると、責任感からプレッシャーを感じてしまっていたのかもしれないですね。前年まではキャッチャーに岡島がいて、引っ張ってもらっていた。その岡島がいなくなり、今度は自分がやらなければいけないという気持ちが強すぎて、力が発揮できなかったのかもしれません」

 その年、オスカルは大学や監督との話し合いの結果、予定通りプロ志望届を提出したものの、ドラフト会議で彼の名が呼ばれることはなかった。

「次、頑張れ」
 藤倉監督はたったひと言そう言って、その場を後にしたという。それはいつまでも一緒にいれば、監督自身の涙腺が緩んでしまう可能性があったからだった。何も話さずとも、教え子の胸の内はわかっていたのだろう。

 大学卒業後、オスカルは社会人の名門Hondaに入社し、長谷川監督の下でプロを目指した。しかし、1、2年目は調子に波があり、いい時には手がつけられないほどのキレのあるボールを投げるものの、悪い時にはとてもマウンドに上げることはできなかったという。そのため、チームからの信頼を得るところまではなかなかいかなかった。ドラフト解禁となった2年目も指名はされなかった。

「大学3年の時のようなボールが、ようやく戻ってきました」
 藤倉監督が長谷川監督から朗報が届いたのは、今年の秋だったという。聞けば、「夏を過ぎたあたりから、スピード、キレが良くなってきた」というのだ。復活の理由を、長谷川監督はこう分析している。

「ようやくコツをつかんだのかもしれませんね。見た目的には何も変わっていないのですが、リリースや体重移動のタイミングなど、ピタッとはまり始めたんだと思います。一番大きいのは、おそらく力の抜き方がわかったことでしょうね。これまでは『抑えてやろう』という気持ちが強すぎて、力いっぱい投げていたんです。投げ終わった後も、『よっしゃ!』という感じで。私はそれをやめなさい、と言っていました。常に同じ呼吸で投げなさいと。それがようやくわかってきたのかなと」

 社会人最後に見せたピッチングさえできれば、プロでも十分に通用すると長谷川監督は太鼓判を押す。しかし、社会人よりもレベルの高いプロの世界で意気込みすぎると、逆戻りする可能性も否定はできないという。だからこそ、いかに早くプロの水に慣れるかが重要だと長谷川監督は見ている。

 球団も即戦力として見ているはずだ。まずは春季キャンプ、オープン戦序盤で首脳陣の信頼を獲得し、開幕一軍入りできるかに注目したい。

取材・文=斎藤寿子 写真=BBM
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