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3人の恩師が語るオコエ瑠偉 プロでの成功のカギはストイックさ

楽天新人選手の体力測定を受けるオコエ。恵まれた身体能力を活かせるかは今後のトレーニングへの向き合い方で変わってくる

 

やればできるのに手を抜いていた少年時代


 東北楽天1位指名のオコエ瑠偉投手と言えば、最大の武器は、やはり走力ということになるのだろう。甲子園でも「一塁強襲二塁打」「背走のスーパーキャッチ」など、攻守にわたって、“足技”が光った。

 しかし、実はチームで一番タイムが速かったかというと、そうではなかったようだ。中学時代に所属した東村山リトルシニアの渡邊弘毅監督によれば、「50メートル走では、オコエより速い選手はいた」という。ところが、ベースランニングとなると、オコエは無類の速さを発揮した。そのため、シングルヒットをツーベースに、あるいはツーベースをスリーベースにすることも少なくなかった。

 さらに、チームで唯一、彼だけはノーサインでの盗塁が許されていたという。その理由を渡邊監督はこう語る。

「オコエには『自分のタイミングで行け』と指示をしていて、よく三盗を決めたりしていましたよ。好走と暴走は紙一重だと言われますが、もちろんアウトになるケースもありました。でも、彼は落ち込むことなくケロッとしている。そういう性格もあって、フリーに走らせていたのですが、もちろんそれだけの足があったからです。12年指導していますが、後にも先にも、ノーサインで走らせる選手は彼以外にいないですね」

 性格も明るく、チームの誰からも慕われるムード―メーカーだったオコエ。当時からの「素直さ」「無邪気さ」は、今も全く変わっていないという。しかし、だからこその難点もあったようだ。練習中、集中力を維持させることができなかったのだ。

「1日1回は、叱りましたよ」とは、オコエが小学生時代に所属した東村山ドリームの肥沼義明監督だ。
「彼は野球が本当に好きでしたから、練習は休まず来ていたんです。でも、素振りだったり、ランニング中、こちらが少し目を離すと、遊んでしまうんです。やればできるのにやらない、ということもよくあって、よく叱りましたねぇ。それでも憎めないのが、オコエなんですけどね(笑)」

 東村山リトルシニアの渡邊監督もまた、「叱ったことしか覚えていないくらい(笑)」と語る。
「彼のポジションはライトだったのですが、すぐ脇にトイレがあるんですね。ノックの時間になると、いつの間にかスッといなくなるんです。どこに行ったかと思えば、そのトイレで休憩しているんです。そして、またいつの間にか戻ってきていて、何もなかったかのようにみんなの輪の中に入っている。そんなことが、よくありましたねぇ(笑)」

プロ入りしたオコエに高校時代の恩師が願うこと


 そんなオコエがある意味、本気のスイッチを入れたのが、高校進学後のことだろう。
 彼が高校1年の冬、関東第一高校は翌春のセンバツへの出場を決めた。その頃、オコエはベンチにも入っていなかった。しかし、甲子園メンバー入りした同級生の存在、そして子どもの頃から目指してきた甲子園が現実のものとなったことで、彼の闘志に火がついたのだろう。同校の米沢貴光監督によれば、「その頃から少しずつ練習にも力を入れて取り組みだした姿が見られるようになった」という。それが、その後の活躍を導き出したひとつの転機となったことは間違いない。

 米沢監督は言う。
「それまでは惰性でやっていた部分はあったのだと思いますよ。それでもやれていましたからね。ところが、高校ではそれでは通用しなかった。『なんとかしたい』という気持ちが芽生えたんだと思います。もともと彼には『甲子園に行きたい』という明確な目標がありましたから、それもプラスに働いたのだと思います」

 周知の通り、高校3年時の甲子園での活躍で、すっかり“時の人”となったオコエ。ドラフト1位指名という最高の評価を得て、プロへの扉を開いた。

 球団から提示された背番号「0」「3」「9」のうち、彼が選んだのは「9」だった。実は当初、彼自身は「0」を考えていたという。しかし、渡邊監督からの「トリプルスリーを狙うという意味でも、『9』はどうだ?」というひと言をきっかけに、最終的には「9」を選択したようだ。既にはっきりと「トリプルスリーを目指す」と公言しており、周囲からの期待の声は大きい。

 しかし、米沢監督は冷静に教え子を見ている。
「高校から行って、プロの世界でそう簡単にはいかないと思いますよ。一軍で活躍するためには、全てが課題です。彼は素直なところはいいのですが、その分、自分に甘いところがあるので、もっとストイックにならなければいけない。頑張る力は持っていますから、周囲から助言をいただきながら、努力し続けてほしいと思います」

 そして、こう続けた。
「皆さん、たとえ凡打でも一塁に全力疾走する、そんな常に全力プレーのオコエを応援してくれたと思うんです。だから、プロに行ってもそういうところを大事にしてほしいですね。そして、見ている人たちが楽しい気持ちになれるような選手になってもらいたいと願っています」

 オコエは東村山ドリームにとっても、東村山リトルシニアにとっても、初のNPB選手。子どもたちにとっては、最も身近な憧れの存在だ。そんな子どもたちに、彼はどんな姿を見せてくれるのか。未完だからこそ、今後が楽しみだ。

PROFILE
おこえ・るい●1997年7月21日生まれ。東京都出身。183cm86kg、右投右打。秋津東小(東村山ドリーム)-東村山六中(東村山リトルシニア)-関東一高。昨夏の甲子園ベスト4。侍ジャパンU18代表では、U-18ワールドカップ準優勝に貢献。2015年のドラフトで楽天1位入団。

取材・構成=斎藤寿子 写真=BBM
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