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恩師が見た日本ハム・白村明弘の成長「宇宙人から地球人へ」

 

プロ2年目の今季は50試合に登板。1勝1敗13H0S、防御率2.03と成長を見せた



18球連続ボール…翌日学校を欠席した白村にかけた言葉


 いよいよ10日からクライマックスシリーズ(CS)がスタートする。セ・リーグよりもひと足早く順位が決定したパ・リーグでは、3年連続CS進出の北海道日本ハムと、5年ぶりの下剋上を狙う千葉ロッテが、福岡ソフトバンクが待つファイナルステージ進出をかけて激突する。

 両者のゲーム差は6.5ゲーム差あるものの、対戦成績は日本ハムの13勝12敗と、ほぼ互角。9、10月に限れば、ロッテが6勝2敗と大きく勝ち越している。日本ハムにとっては、17勝8敗と得意にしていた埼玉西武よりも、ロッテの方がやりにくさを感じているに違いない。

 後がない短期決戦では、“水モノ”の打線よりも、やはり投手陣の出来がカギを握るだろう。先発陣はもちろん、リリーフ陣の安定感が試合の流れを変えることも少なくない。

 日本ハムにとって重要なピッチャーのひとりに、今季台頭したプロ2年目の白村明弘が挙げられる。春には安定感を欠いた時期もあったが、6月27日から16試合連続無失点をマークするなど、着実に指揮官の信頼を得てきた。今では主に守護神・増井浩俊の前を投げるセットアッパーとしての役割を果たしている。

 そんな白村を「宇宙人」から「地球人」になったと成長を喜んでいるのが、慶応高校前監督の上田誠氏だ。

「もともと天然なところがあって、ちょっとピンとがずれているようなところがあったんです(笑)。でも、今はすっかり大人になりましたね。昨オフに『たまには飯でも食おうか』と誘ったら、断られましたよ。どんどん後ろからいいピッチャーが入ってくるので、危機感があるんでしょうね。オフ期間中はずっと練習に励んでいました」

 実は、白村のピッチャーとしての才能を見出したのが、上田氏だった。上田氏が初めて白村のプレーを見たのは、彼が中学3年の時。当時は主にセンターを守り、時にはショートもこなすという野手だった。バッティングが良かったこともあり、周囲は野手としての才能の方に注目していたのだ。

 しかし、上田氏は違った。ひと目見るなり、「高校ではピッチャーをさせたらどうだろうか」と考えていたという。その理由は、強肩で遠投能力に優れ、しかもその投げ方が非常にきれいだったからというものだった。

 入学後、白村のキャッチボールをする姿を見た時、上田氏は「やはりピッチャーをやらせたい」と考えたという。本人に打診をすると、「やってみたいです」という答えが返ってきた。「ピッチャー白村」はこうして誕生したのだ。

 とはいえ、本格的にピッチャーをしたことがなかった白村は当時、投げられるのはストレートのみ。プレートの使い方も知らなければ、無論クイックなどという技術もなかった。白村がすごいのは、その状態で公式戦で結果を出してしまうところだった。

 白村が入学した春、チームは関東大会に進出した。連戦が続き、上田氏はピッチャーを休ませたいと思ったのだろう、準決勝で白村をリリーフ登板させたのだ。その年の夏、甲子園に出場した強豪・甲府商相手に2回を1失点。ピッチャーに転向してわずか2カ月での公式戦デビュー、しかも球種はストレートのみというのだから、見事なピッチングだったと言っても過言ではないだろう。残念ながら、チームは0-2で負けたものの、上田氏も白村に関しては大きな手応えをつかんだに違いない。

 しかし、1年時の白村は荒れ球が多く、ストライクゾーンに入ればOKということも少なくなかった。その典型が、1年秋の県大会、決勝の横浜戦。先発した白村は、なんと初球から18球連続ボールと、まったくストライクが入らず、降板した。さすがの白村もこれにはショックを受け、翌日は学校を欠席している。それを知った上田氏は電話をかけ、「何やってんだ、バカヤロー!」と檄を飛ばしたという。

 そんな白村も、今ではプロの一軍で活躍する選手にまで成長した。上田氏の目に狂いはなかったということだろう。試合の終盤になると、教え子の登板を今か今かと楽しみにしているという上田氏は、白村の成長をこんなところに感じている。

「以前の彼は、マウンド場でよく感情を表情に出していたんです。例えば、2者連続で三振に仕留めたりすると、『どうだ!』と言わんばかりに得意げな表情をしていました。調子がいい時はいつもニコニコするんです。ところが、ボールが続いたり、痛打された時には集中力を欠いたようなへなっとした顔になる。でも、今は違いますね。どんな状況でも常に厳しい顔をしている。頼もしさが感じられるようになりました。それもチームからの信頼を得ている要因になっているんでしょうね」

 プレーオフでも外連味のないピッチングを、恩師は期待している。

文=斎藤寿子 写真=BBM
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