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猛虎打線の斬り込み隊長は? と質問すれば、今や誰もが「上本博紀」と答えるだろう。多くの虎ファンが待ちに待った生え抜きのリードオフマン。体全体がバネのような体躯を持つ男は、甲子園のファンを魅了するとともに、チームを勝利へと導くファイトあるプレーを見せている。もちろん、これから激化する優勝争いを勝ち抜くために欠かせない存在であることは間違いない。その上本は今何を考えてグラウンドに飛び出しているのか――。
取材・構成=椎屋博幸 写真=松村真行、BBM

打席では初球から打てるようにしておくことが大事


今季はプロ入り後初の年間100試合出場以上を果たし、阪神のリードオフマンとしてすっかり定着した。当然上本自身も毎試合、先発で出るという覚悟は出来上がっている。

 ある程度、自分が出場することは予想していますが、確信ではないんです。ただ昨年までのように「先発出場はあるかな、どうかな」と思うことは少なくなりました。

 その分、自分のリズム、毎試合同じようなリズムで試合に臨むことができるようにはなりましたね。気持ち的には、ラクではないですが「どうかな?」という不安がありながらの毎日よりは、安定しているとは思います。

 安定しているという意味は、精神的な部分です。それでも、試合にコンスタントに出場したからと言って、今までと試合への入り方は変わらないです。

 また、個人的には開幕のときから、今まで同じ緊張感を保っています。開幕から1日1日が勝負だったので、その感覚のまま、現在まで来ています。多分、シーズンが終わるまでそうだとは思います。そういう気持ちなので、チームが2位だから……終盤に入ったから……優勝争いをしているからという感覚はなく、毎日、張り詰めた状態で試合に臨んでいて、それが今に至っている感じです。

 僕の中では、成績が悪くなるとすぐにでもスタメンを外されることもあると思っていますから。その危機感が今の僕を支配しています。自分のことばかりではいけないとは思っているんです。でも、どうしてもそこは考えてしまいますし、スタメンで出ている以上、責任はありますので。下手なこともできないですよ。

今や猛虎打線に欠かせない存在となった上本。一番が出塁し、クリーンアップで上本をホームに還す、それが今年の勝ちパターンだ。



 開幕4試合目から、西岡剛のケガにより、一番・二塁に抜てきされると、その資質が開眼。躍動感あふれるプレーと、一番打者として粘りのある打撃で、チームに勢いをつける役割を担っている。今もその勢いは衰えることなく、猛虎打線を引っ張っている。

 先頭打者で気を付けていることですか? それは第2打席以降でも同じですが、「初球から打てるようにしておくこと」です。あとの細かいことは考えていませんね。第1打席で先発投手にたくさん投げさせようなどと考えてばかりいると自分の打撃が分からなくなります。結果的にたくさん投げさせていると良いな、という感覚だけです。

打席では積極性を失わないことを大切にしている



 まあ、1球目から打とうとして全部が打てるわけでもないですよね。

 ボールから入る投手もいますし、打ってもファウルになったりしますので。ただやはり、試合に対して受け身になるよりは、何事も積極的に行った方がいいかなと。

 打撃も考えないことはないですが、今重点的に考えていることは守備のことばかりです。打撃に関しては打てなくても、自分の成績になるんですが、守りでエラーなどをして迷惑をかけると投手の方たちの成績にもかかわってきますので、そこに責任を感じます。実際に守備では投手陣の皆さんに迷惑かけてばかりなので。

 今後の課題は、いかに凡ミスを少なくするか、です。誰から見ても分かるミスを犯していることが多いんですよ。記録には出ない部分なのですが、それをなくしていきたいです。

凡ミスを少なくすることを今後の課題として挙げている



今日頑張って、明日も頑張る


 上本は今季、阪神の選手会長に就任した。メディアは選手会長の上本に対し、チームリーダーとしての言動を求めることが多くなった。もちろん、現在はレギュラーとして、さまざま責任を負ってプレーしているが、ここでひと言、言いたいことがあるという。

 選手会長になってから、よく、キャプテン的なイメージで見られるんですが、選手会長はあくまでも阪神選手会、労働組合の会長なんです。僕の立場では、副会長などと一緒に組合のことをする、野球以外の部分を取り仕切る、オフに仕事をするというだけです。そこが混同されていますよね。少しそのギャップにストレスを感じています(笑)。選手会長でなくてもチームを引っ張れる人がいれば、引っ張ってくれればいいですしね。

 選手会長としてもそうだが、今ではチームに欠かせない、リードオフマンとして、これからも続く激しい優勝争いの中で、チームをけん引していかなければならない存在となった。ただ、上本は先を見てないという。あくまでも1試合、1打席に集中していくのみと……。

 僕ら選手にとってはどの試合も大事な1試合なんです。今のところ、結果的に優勝争いをしているだけで、開幕のときと同じ1試合だと思って戦っています。だから1試合でも手を抜くなどということはないです。その試合に勝つためには、まずは日々の準備が大事だと思っています。その準備をしっかりしていれば、結果はその後に自ずとついてくる。

 それが結果として優勝になるかもしれないですが、今そこを求めていたら何も起こらないと思っています。先ほども言いましたが1試合、1打席ごとの準備をしっかりやって、集中して試合に臨む、その積み重ねしかないんです。もちろん100試合を超えましたので、疲れていますよ。疲れている事実は隠せないです(笑)。

 ただ、誰もが疲れているので条件は同じです。僕は見栄を張って「疲れていない」とは言わないです。その疲れている中で、勝ちに向けてやるしかないんです。だからこそ「今日頑張ります!」と言わせてください。今日頑張って、明日も頑張る、という感じで、最後までプレーしていきます。

PROFILE
うえもと・ひろき●1986年7月4日生まれ。広島県出身。173cm63kg。右投右打。広陵高時代は1年夏から二塁のレギュラーで甲子園出場し、4季連続出場を果たした(3年生の夏は県予選敗退)。その後早大に進み、2009年にドラフト3位で阪神に入団。2年目の7月8日に一軍デビューを果たし28試合に出場。今季から選手会長に就任。開幕4試合目から一番・二塁で出場するとレギュラーを奪い、不動の一番に定着した。今季は9月4日現在で107試合出場、打率.285、7本塁打、31打点、15盗塁。
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