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独走!広島カープ大特集

強力・広島打線を支える3人のコーチ 石井琢朗・東出輝裕・迎祐一郎

 

チーム好調にはやはり投手陣だけでなく、“ビッグレッドマシンガン”と呼ばれる打線が大きな役割を担っている。バッティングだけでなく、足を絡めながら一気呵成に襲いかかる攻撃はどのように出来上がったのか。躍進をもたらした3人の指導者に迫る。
写真=太田裕史

打線再構築を託された“神様”と“通訳”


 破竹の勢いで突っ走る。安定感のある投手陣もさることながら、快進撃の要因は間違いなく「ビッグレッドマシンガン」と愛称がつく強力打線だろう。その陰には、3人の男の存在がある。リーグ5位のチーム打率.246に終わった2015年のオフ。再建を託されたのが、守備走塁コーチを務めていた石井琢朗だった。「急に打てるようになるとは思っていない。でも打てないときにも点を取れる打線を作りたい」。打撃コーチ就任直後に力を込めると、秋季練習から打撃改造が始まった。

通算2000安打以上を放った経験をもとに、さまざまなアプローチを行う石井琢朗打撃コーチ


 ティー打撃用のボールに文字や数字を書き、動体視力を強化。ゴムチューブや小さいボール、細長いバットを持ち出した。通算2432安打を放った自身の現役時代に役立ったものは、積極的に取り入れた。さらにタブレットPCを使って打撃フォームも分析。打撃につながるアイデアを次々に生み出していった。「押しつけない。ヒントを与える」ことを信条とする指導は選手の心もつかんだ。エルドレッドには具体的な指示を出し「顔を合わせるたびに我慢と言っている」。1人ひとりに合った指導を行ってきた。

 託されたもっとも大きな仕事が、丸佳浩の復活だった。非の打ち所がない成長曲線を描いた男も、15年は打率.249に沈んだ。頭部死球の影響もあってか腰が引け、かかと体重の悪癖が消えない状態。石井コーチは丸と何度も話し合いを重ね、作り上げてきた独特のフォームを変更することを決断した。「探りながらスイングをしているように見えた。間合いが取れなくなっているように見えた。だから、変えられるところは変えていこう」。

 グリップを左肩まで上げて構え、足を大きく上げてタイミングを取る。狙いは「対応できる球を増やす」こと。グリップがヒッチするなど、丸の感覚も混ぜ合わせた。何より練習し、復活へと導いた。

 そんな石井コーチの「通訳みたいなもん」と自称するのが、今季から背番号72番のユニフォームを着る東出輝裕打撃コーチ。優れた打撃理論と分かりやすい言葉を買われ、引退即一軍のコーチとなった。

 東出コーチは言う。「緒方(孝市)監督もそうだし琢朗さんも、神様みたいな人なんだよ。もちろん分かりやすく言ってくれているんだけど、俺たち凡人には分かりにくい感覚がある。それを伝えるのが俺と迎の仕事かな」。石井コーチの指導を、角度を変えて、別の場所からもアプローチする。1366安打も打っていればそうではなさそうだが“凡人”が指導に厚みを出している。

緒方監督、石井コーチと選手の橋渡し役をこなす東出輝裕打撃コーチ


 そして何より緒方監督が「ずっと感覚が似ていると思っていた」と話すように、指揮官と石井、東出の両打撃コーチ、迎祐一郎打撃コーチ補佐の打撃理論が一致していることが大きい。ベンチでの助言にも齟齬がなく、だからこそ、好不調の見極めも素早いのだ。

 圧倒的な練習量もある。広島はホームゲームで早出練習を欠かさない。通常練習よりおよそ1時間も前から、2カ所でフリー打撃が行われている。1カ所はマシン打撃、そしてもう1カ所に、東出コーチと、もう1人の“通訳”迎コーチ補佐が立つ。年齢が選手と近い2人は兄貴分的存在だ。打撃投手を務め、変化球を交えて選手と対戦しながらアドバイスを送る。時には迎コーチ補佐がその日の対戦相手の投球フォームをマネるなど、雰囲気はとにかく明るい。一躍スターとなった鈴木誠也も、足がかりを作った下水流昂も、この早出練習からきっかけを作っていった。

首脳陣最年少の迎祐一郎打撃コーチ補佐だが、石井コーチの指導は十分に理解している


打てないときに勝つ。垣間見えた打線の神髄


 爆発力に注目が集まるが、打撃コーチの観点は別のところにある。石井コーチは就任から一貫しているのだ。

「打てないときにどうするか――」

 象徴的だったのは98年以来18年ぶりの9連勝を飾った6月26日の阪神戦(マツダ広島)。チームは序盤に阪神先発・岩貞祐太に苦しめられた。8回まで放った安打は新井貴浩のソロ本塁打の1本だけだった。結局9回に攻略してサヨナラ勝ちするのだが、石井コーチは試合後に開口一番、こう言った。

「確かに8回まで1安打だったけど、2点取っているでしょう。ヒットの数で戦っているわけではない。もちろん投手が踏ん張ってくれているんだけど、試合にしていることも忘れないでほしい」

 この試合、5回に四球を足がかりに岩貞へ足でプレッシャーを掛け、田中広輔が犠飛を放って1点を奪った。形はどうあれ、次につないでいく打撃が徹底されているから奪えた点だった。派手ではない場面にこそ、強力打線の神髄がある。

 要所で行われる円陣では、身を乗り出して身ぶり手ぶりで指示。狙い球や気をつけるべきポイントを的確に伝える。好機で打席に向かう前の選手にも言葉を掛ける。

「練習のつもりでいけよ」

「絶対に投手のほうがプレッシャーがかかっているからな」

 心を近づける神様と、寄り添って熱心に汗を流す通訳。そして平等な目で見守る指揮官。ビッグレッドマシンガンがそうである理由は、ここにある。そして今日も、いつもと変わらず早出練習が行われる。「神ってる」広島の快進撃は、止まりそうにない。
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