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2014ペナントレースEXPRESS

コイの季節が終わっても首位を死守

 

打って勝つ、守って勝つ、勝利の形を複数パターン身につけ、大型連敗を回避
取材・構成=佐野知香 写真=井田新輔、BBM

▲打線の柱として機能しているエルド砲。3、4月の月間MVPを獲得した打棒は5月に入っても上昇を続ける



コイの季節は過ぎ去っても広島が依然、首位に立っている。3本柱の一角・野村祐輔、4月18日のDeNA戦(横浜)以降、1試合を除いて一番に定着していた堂林翔太、11セーブを挙げているクローザーのミコライオが離脱するアクシデントが続く中、5月3日から始まった9連戦を5勝4敗で乗り切った。

 故障者、離脱者がいなくとも決して潤沢に戦力があるわけではない。それでも首位に立っていられるのは、チームに勝利のバリエーションが増えているからだろう。ヤクルトに2連敗して迎えた8日の同カード(神宮)では、開幕から5試合、クオリティスタート(6回以上、自責点3以内)を続けていたルーキー・大瀬良大地が自身最短の5回1/3 5失点(自己ワースト)で降板も、打線が16安打13得点して同一カード3連敗を何とか逃れた(大瀬良は4勝目をゲット)。

 翌9日の中日戦(マツダ広島)では、前回登板で3回4失点とKOされた左腕・篠田純平が7回1失点の粘りの投球で勝ちを引き寄せる。1対1でともに勝ち越し点を奪えない重苦しい展開で、野村謙二郎監督が「勝機」と見た7回裏には代打、代走に野手5人をつぎ込む一斉攻撃を仕掛けて2点を奪取。この試合後、左足内転筋痛を訴えたミコライオが9回1点を奪われたが、3対2の1点差で逃げ切った。1点差ゲーム勝利はここまで6勝2敗。昨季の22勝23敗から圧倒的に勝負強さを増している。

 そして10日はエース・前田健太が7回4失点と苦しみながらも、打線の爆発で中日に連勝。投手が苦しむときは打線が、打線が苦しむときは投手が働く、お互いがカバーし合う戦いで現在の貯金は11。ここまで1勝もできなかったカードが1度もなく、それどころか2連敗が3度あるのみだから、一気に貯金を食いつぶすことがない点に例年との違いを感じさせる。


▲5月8日は大瀬良[上]、10日は前田健[下]が本来のデキとは程遠い投球ながらも白星を得た



 それでも不安要素は投打ともにある。1つは3本柱の一角・野村の不調。昨季の2ケタ勝利カルテット(前田健15勝、バリントン11勝、野村12勝、大竹寛10勝)から大竹(現巨人)が抜けたことで、優勝を狙うには欠かせない戦力だが、今季は5試合に投げて3勝2敗、防御率6・84。制球力のある投手とはいえ、ストレートの威力を欠くことで苦しいピッチングが続いていた。5月1日に一軍出場選手登録を抹消されて以降は、ウエスタン・リーグでも登板はせず、ミニキャンプを敢行中。本来の投球を取り戻すには時間を要しそうだ。

 その点で9日に篠田が2試合連続の背信を見せなかったことは評価できる。野村監督も「初戦を取れたことは大きい」と前田健、バリントンが後に控える状況で3連戦の頭を取ったことを喜んだが、11日の中日戦(同)をバリントンで落としただけに、中日3連戦の勝ち越しは当然のこと、9連戦の勝ち越しに価値ある1勝となった。ブルペンへの信頼が日に日に増しているだけに、大きな貯金は期待できなくとも、5、6イニングを、責任を持って投げ、勝利の可能性を高めることができる先発投手の存在は貴重だ。

▲5月9日に7回1失点で勝ち投手となった篠田。3回4失点KOされた3日のDeNA戦(マツダ広島)の反省を生かした見事な投球でチームを救った



 しかし、10日のミコライオの登録抹消でブルペンも予断を許さない状況になった。山内投手コーチは「適性を見ながら考えたい」と当分の間は12ホールドを挙げている一岡竜司と、二軍での16試合17イニングを無失点と安定しているフィリップスが代役を務める。中田廉永川勝浩を含めて快進撃を支えてきたブルペンの大黒柱が抜けるが、もともと夫人の出産のために今月末には帰国する予定だったため、抜かりなく準備を進めていたことが奏功しそうだ。

 打線では堂林が右手薬指骨折のため9日に戦線を離脱。シーズン前半戦の復帰は絶望的な状況だ。二番からの菊池涼介丸佳浩エルドレッドの流れが固まっているだけに、打線の機能性を落とさない一番の人選に野村監督の眼力が問われる。9日は鈴木誠也、10、11日は新人・田中広輔が代理を務めた。

 開幕は一番・丸、二番・菊池、四番・キラ、エルドレッドは六番だった。しかし、キラの不調とエルドレッドの覚醒を見るや、エルドレッドを柱に据えた。エルドレッドはここまで打率・370、12本塁打、39打点。打点と得点圏打率・488はリーグトップの成績を残している。柱が決まれば、そこに最高の形で打順を回すことが打線構成の定石。そこで丸を三番に移して打線の流れをつくった。そして一番を日替わりで試す中で堂林がハマったのがこれまでの形。決して確実性を求めて一番に置いていたわけではないため、人選によってはさらに流れのある打線が構築される可能性を秘めている。

 投打ともに主軸は確固たる柱として据え、枝葉のバリエーションで戦いの色を変える。快進撃を続ける今季の広島の戦いは見ていて面白い。ハラハラドキドキ、予想外の展開で楽しませてくれるのが今季のカープだ。
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