週刊ベースボールONLINE

ヒューマンクローズアップ

斎藤佑樹 歩み始めた復活への道

 


766日ぶりの勝利はお預けとなったが、斎藤佑樹が4月10日以来となる一軍マウンドに上りソフトバンク打線を相手に5回4安打1失点で首脳陣の期待に応えた。ここにたどり着くまでの約3カ月間をどのように過ごし、また、今後はローテーションの一角に食い込むことができるのか。たくましさを増した右腕の“現在”をリポートする。
文=高橋和詩(スポーツライター) 写真=高原由佳

重圧をはねのけ存在感示した78球

 たくましく、輝きを放った。斎藤佑樹は確かな存在感を示した。

 7月12日のソフトバンク戦(札幌ドーム)がカムバックの舞台だった。ちょうど1年に一度の「WE LOVE HOKKAIDOシリーズ」の3連戦の2戦目。4万1208人の超満員の観衆に見守られる、華々しいマウンドを任された。

 地響きのような温かい拍手の嵐を全身に受け止め、パワーへと転化した。身震いするようなムードの中で、ブランクを少し実感するような感覚に襲われた。「初回は緊張しました」。アマ、プロで第一線を走り続けてきた経験はあっても、固くなった。尊い誓いも抱えていたことで、さらに重圧も感じてしまったのかもしれない。スタイルに決意が表れた。

 12球団NO.1の破壊力を持つ打線を相手に胸と胸を突き合わせた。直球主体のパワー投球で挑んだ。5回を4安打1失点。

 失点は4回に内川聖一に浴びたソロのみだった。最速は144キロも、数字では計れない威力、キレがあった。大胆に各打者の胸元を突き、持ち前のコンビネーションの幅を広げた。右打者には三塁側、左打者には真ん中とプレートの立ち位置を使い分けた。すべては「内角を攻めるため」という創意工夫で攻め抜いた。象徴的だったのは1点を先制された4回、なおも二死一、二塁での明石健志への投球。愚直なまでに内角へ投げ込み続けて6球目、空振り三振でピンチを断った。これからの再出発の生命線と決めているのだろう。そこに執念を見た。

4回、内川に特大の一発を浴びる。初回は二ゴロに打ち取ったツーシームを、見事に左翼席へ運ばれた



 78球で降板したが、1点リードで中継ぎ陣へとバトンを託した。最低限の使命を果たした。12年6月6日広島戦(札幌ドーム)以来の白星は手から離れていったが、堂々の内容だった。それでも心のどこかには、もどかしさが残った。「本当にいい投球をしていたら代えられなかった」

 ただ、マウンドに立つだけでも満足できたときとは違う。正真正銘の復活ロードを歩み始めた証拠が湧き出るような勝利を欲する投手としての本能。投手生命の危機ともいえる右肩関節唇の損傷で全力投球をすることもできなかった1年前とは明らかな心境の変化があった。

 開幕先発ローテ入りした復活に懸ける今季はここまで2試合に登板。開幕2戦目の3月29日のオリックス戦、そして、ポイントになったのが4月10日の楽天戦(ともに札幌ドーム)。アクシデント以外ではプロ最短の1回1/3と屈辱的なKOが、この試合で見せた反攻の兆しが生まれる起点だった。

4回裏に中田の適時打で同点に追いつき、5回を投げ切りホッとしたのか、笑みがこぼれた。「5回までしか投げられず悔しい。次は長いイニングを投げて結果を残せればと思う」



目覚めた反骨心 再生への確かな手応え

 3カ月間の二軍暮らし。4月11日に出場選手登録を抹消されてから、早期で戦列へと戻って表舞台での出番を待ったが、一軍招集の指名がかかることはなかった。故障でリハビリを続けていたときとは違う、もどかしさ。投げることができるにもかかわらず、戦力構想から外された。

 栗山監督ら首脳陣から実力でジャッジされた立場を簡単に受け入れることはできなかった。

「なんで、ここ(二軍)で野球をやっているんだろう」

 アマ、プロとエリート街道を走り続けてきただけに、一時的な措置とはいえ挫折した自分を受け入れることは容易ではなかった。しっかりと見つめ直すことができず、やや自暴自棄な行動が見受けられたとも、周囲は証言する。

 地道にネットへ向かってのスローイングという単純作業を繰り返した。故障個所に負担がかからず、なおかつパフォーマンスが向上するための動作確認の日々。ダルビッシュ有(現レンジャーズ)らの育成に尽力した中垣征一郎トレーニングコーチの陣頭指揮の下、二軍調整中のベテラン投手らの助言を聞き入れながら基礎固めを再度実践した。スポットライトを浴びることない。まさに苦闘だった。

 二軍戦では結果を求めるあまり、変化球主体の投球スタイルになったこともあった。自分を見失い、迷走しかけたこともあったが、開き直って我に返った。

「投球は直球が軸。それだけは意識をしてやった。打者に向かう気持ち」。

 静かに動向を注視し続けた栗山監督の狙いも、そこにあった。4四死球と小手先でかわすように見えた楽天戦で、あえて早期降板させ、二軍へ降格させるという大ナタをふるった。プライドをくすぐり、反骨心を目覚めさせることが1つの狙いの方策だった。そしてソフトバンクとの3連戦を復活の舞台に選んだ。オールスター前に上位を行くライバルとの差を縮めるには格好の重要な3連戦。その1試合を準備した。「チームにとって大きな推進力が必要」と起爆剤として斎藤佑を指名した。それに応えうる準備が心技体で整ったと判断した。それが的中し、覚醒の予兆が見えた。見つめ続けた指揮官は大きくうなずいた。

「アイツが頑張ったら、こうやって投げられる」。12年11月1日の巨人との日本シリーズで発症した右肩の故障から、昨季の一軍登板はわずかに1試合のみ。そして真価が問われる今季は開幕直後の姿からまた変わり、成長の跡を明らかに見せた。斎藤佑樹が再生すると信じることができる軌跡をようやく見せた。「今日みたいな投球をしていれば、いずれ勝ちは付いてくる」

 目先の復活勝利に固執することなく、明るく照らし出されてきた未来を見ることができるようになった。背番号18に希望の光がいま力強く灯った。

◆斎藤佑樹 2014年公式戦成績
※7月14日時点
一軍公式戦 3試合0勝1敗 防御率5.11 12回1/3 球数225 15安打 8三振 8四死球 8失点 自責7
ニ軍公式戦 12試合1勝4敗 防御率3.14 66回 球数1002 51安打 41三振 25四死球 29失点 自責23
HOT TOPICS

HOT TOPICS

球界の気になる動きを週刊ベースボール編集部がピックアップ。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング