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2014-2017 日本代表戦記

第2回「みんな、見ている」

 

小久保ジャパンの国内初陣は、ソフトバンク日本ハム連合にまさかのゼロ封負け。「侍ジャパン。大丈夫?」と誰もが不安を抱いたが、チームは意外にも落ち着いていた。
文=坂本匠[本誌] 写真=早浪章弘、毛受亮介

川崎宗則はカノと笑顔で情報交換



 開幕から24年ぶりの3連勝で侍ジャパンがメジャー軍団に勝ち越すなど、誰が想像できただろうか。少なくとも11月10日、福岡・ヤフオクドームに集まっていた2万3446人のファンは、目を、そして耳を疑ったはずだ。新生・侍ジャパン集合から3日目。この日、同球場ではソフトバンク・日本ハム連合を迎えて『日米野球壮行試合』が行われていた。

 前日のわずか1日、時間にして約120分間のセッションのみを経てのゲームに、一抹の不安を覚えながらスタンド記者席から見守ったが、案の定、侍はまだまだチームとしての体を成しておらず。若手主体の連合軍に終始圧され気味の展開となった。結果はご存じのとおり。自慢の投手陣こそ7人の継投で1失点と結果を残したが、一方の打線は散々。4安打の完封負けまでは、さすがに予想することはできなかった。

「今日は展開に関係なく、野手を使い切ろうと思っていました。そういう意味では目的は果たせたのかなと。(先発の)藤浪(晋太郎、阪神)をはじめ、投手陣は収穫だらけでしたね」とは試合後の小久保裕紀監督の弁。強がっているわけではない。指揮官はあくまでもトレーニングの一環として、この試合をとらえていたわけだ。

 そう考えれば、選手に対してもこの体たらくを攻めることはできない。ポストシーズンに進出できなかったチームの選手たちは、長らく実戦から離れており、試合勘を取り戻す必要があった。この結果はある意味必然で、思い返せば、13年の第3回WBCを戦ったチームも、09年の第2回も、初めての実戦はこんなもの。いくらセレクトされた選手たちとは言え、そこには時間が必要だった。

 であるならば、トレーニングマッチ程度にしかならないことが容易に想像つくゲームを壮行試合と謳い、日米野球本戦に準じた試合とするのは不誠実に思う。過去の例からもこの“あり様”は予想できたからだ。バックネット裏のチケットは1万円。選手たちの意識はトレーニングの一環でも、チケットを買ったファンには大切な1試合。しかも、地上波でテレビ中継まで行われている。

 日本代表の常設化が決まって以降、初のトップチームでの活動。ゆえに大きな注目が集まっていたが、こんな試合では、はっきり言ってマイナス効果。だれもが「侍ジャパン、大丈夫?」と思ったはず。日本のトップ選手たちの一挙手一投足を、みなが見ている。運営サイドはファンに対しても、選手に対しても配慮を欠いていたのではないか。小久保ジャパン国内初陣で、まさかの完封負けを喫した翌日、チームは開幕戦が行われる大阪へと移動。すぐに阪神二軍施設・鳴尾浜球場へと場所を移し、全体練習がスタートした。同日、甲子園球場で行われる阪神・巨人連合対MLBオールスターチームにも参加予定の藤浪、小林誠司(巨人)、坂本勇人(巨人)の3人は一時離脱。それでもこの日はニュースに事欠かなかった。

▲10日の壮行試合に先発した藤浪晋太郎は翌11日、阪神・巨人連合軍に加わり元気な姿を見せた



 前日、打球を右手に受けた藤浪が甲子園で元気に練習していることを確認し、ホッと胸をなで下ろしていると、今度は金子千尋(オリックス)が、期限だったこの日、FA権を行使したことが明らかに。練習後、多くの報道陣が、侍ジャパン最年長投手を囲んだ。

「知っているとは思いますが、FA宣言することに決めました。前にも言いましたが、すべての可能性を考えたいなと思ったので、こういう決断になりました。今は日米野球中なので、そこに集中したい。中途半端な気持ちでは投げたくありません」

▲11月11日、金子千尋がFAを宣言



 ポスティングを利用しての海外移籍も視野に入れてのFA宣言。国内外を含めての争奪戦は必至だが、小久保監督がセの前田健太(広島)と並べ、セ・パの両エースと評する金子には、その価値がある。

 そんな喧騒をよそに、グラウンドで熱心に外野ノックを受けていたのが筒香嘉智(DeNA)だ。8日に中村晃(ソフトバンク)の辞退を受けて、急遽、追加招集。DeNAの秋季キャンプ地・奄美大島から駆け付けた。この日が初練習。小久保監督も「左の長距離砲ですし、年齢的(22歳)にもいい」と期待を寄せると、筒香は、「楽しみですし、頑張ります」と頼もしかった。

▲追加招集の筒香嘉智が11日に初練習



 新たな四番候補の加入に危機感を覚えたのか、全体練習終了後、中田翔(日本ハム)が内川聖一(ソフトバンク)とともに特打。背後で見守る稲葉篤紀に「内川君のように、柔らかく、バットをしならせろ」とアドバイスを受けると39スイング中8本がオーバーフェンスに。壮行試合では4タコ。その後の開幕戦でも当たりの出なかった中田だが、第2戦でコンパクトに、センターを中心に2本の安打を放つと、第3戦ではレフトスタンドへ待望の第1号。まだまだ「内川君のように、柔らかく」には程遠いが、この技術を身に付けたら鬼に金棒。そんな中田の姿を見ることができる日が来ることを切に願っている。

 ところで、MLBオールスターに、今季15勝の岩隈久志(マリナーズ)、ついにデビューを飾った和田毅(カブス)が、解説者としてスーツ姿で青木宣親(ロイヤルズ)、川崎宗則(ブルージェイズ)がいることに違和感を覚えるファンはどれほどいるのだろうか。彼らも侍ジャパン入りの有資格者。13年の第3回WBCでは、山本浩二監督の招集の打診を、メジャー・リーガーたちがことごとく断ったことで、小久保監督も二の足を踏むのは分かるが、最強日本代表を謳うのであれば、呼ぶべき。みな、そういう思いで見ている。(以下次号)

▲稲葉篤紀コーチと談笑する青木宣親

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