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高橋由伸ほど恵まれたプロ野球人がほかにいるだろうか?その人生をスタートさせ、決定づけた1枚

 



 この写真は、1997年9月28日、慶大・高橋由伸外野手(主将)が、法大2回戦で、東京六大学新記録となる通算23号ホームランを放ち、雄叫びをあげながら一塁を回るシーンをとらえたものだ。 安藤優也投手(現阪神)の投じた1ボールからの2球目は外角高めのストレート。これを高橋は予期したかのように思い切り踏み込んで引っかけるようにスイング。打球は右翼上段まで伸びる大ホーマーとなった。

「当たりとしては悪くなかったんですが、自分の思った方向と逆の方に飛んでしまったので……。技術的には満足していないです」

 これが由伸の試合後の談話。引っかけずに素直に打ち返して、左中間か、中堅スタンドに届けば、満足ということなのだろうか。“天才”ならではのセリフではあった。

 その天才が、「週ベ97年12月1日号」で、もう1人の天才アーチスト、それまでの六大学本塁打記録を持っていた田淵幸一氏(元阪神、西武)と対談している。高橋はすでに巨人を「逆指名」、入団が決まっていたのだが、田淵氏は開口一番「高橋君が逆指名したときは、ひと言、うらやましい! という気持ちだった」。

 68年のドラフトで、巨人を熱望していたのに、阪神が1位指名。泣く泣く西へ下った田淵氏にしてみれば、スンナリと巨人入団が決まった高橋は、まさに「うらやましい!」存在だった。それだけではなく「俺は死ぬまで抜かれないと思っていた」(田淵氏)本塁打記録まで破ってしまったのだから、「何ということだ」と嘆いたことだろう。

 さらに、さらに、その上にもう1つうらやましいことが。高橋を迎える巨人には長嶋茂雄監督がいるではないか! 田淵氏の世代は、み〜んなこの人にあこがれてプロを目指したのだから。

 長嶋監督に会うときは、緊張して話せないのではと心配する高橋に、田淵氏は「大丈夫。会ったらきっとあなたをしゃべらせない。ずっと1人でしゃべり続けるよ(笑)」。その長嶋氏は、高橋の巨人監督就任を一番喜んだ人。高橋由伸。これほど恵まれた野球人はほかにいない。

文=大内隆雄
おんりい・いえすたでい

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