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Gの強肩新人捕手は一軍で場数を踏ませて育てるのがベスト

 

 プロ野球殿堂入りの仲間でもある元広島大野豊君の入団1年目の成績をご存じだろうか。大野君はルーキーのとき、たった1試合だが一軍の試合に投げている。その試合で彼は一死を取っただけで5点を取られた。防御率「135.00」という天文学的な数字を残している。

 その大野君は2年目に開幕一軍のメンバーに入ったとき、母親に「サクラサク」という電報を送ったという。1年目の成績が成績だっただけに、よほどうれしかったのだろう。若い選手にとって「開幕一軍ベンチ入り」というのは、それほど特別なものなのだ。

 今年も何人かのルーキー、若手がとりあえずの目標である「開幕一軍入り」を果たした。巨人のドラフト1位・小林誠司もその1人だ。キャンプ、オープン戦を見ていて、線の細さが気になった。これは仕方がないことなのだが、阿部慎之助に比べると、どうしてもひ弱に見えたのだ。

 しかし、実際に試合に出ると「弱い」と思われていたバッティングで、勝負強さを見せてくれた。オープン戦はどこの球団も新戦力の力を測るために、ストレート中心の投球をしたり、あえて打てる所に投げたりする。彼は一軍クラスのその投手の球に対して、素直ないいバッティングを見せたが、細かく分析すると、外角の球はぶつけるだけで、おっつける打撃はできない。三ゴロや遊ゴロなど引っ張る打撃が多かったから、公式戦に入ると、外角への変化球で攻められることは容易に考えられる。打者としては、まだまだ発展途上と言えるだろう。

 しかし、肩は間違いなく一級品だ。阿部も入団時は強肩だったが、小林はそれ以上かもしれない。フットワークなど、今後も上積みされる部分があるから、捕手としてドンドンうまくなっていくだろう。小林は阿部が元気なうちに、阿部を研究して吸収していくべきだ。これだけの肩を持っていれば、相手チームに足でかき回される危険性が少ない。一軍で場数を踏ませて育てるのがベストだろう。巨人の捕手として今後10年くらいマスクをかぶり続けてもらいたいというのが、球団の考えでもあるのは間違いない。

 今年は小林のほかにも、楽しみなルーキーが多い。楽天の高校生ルーキー、松井裕樹も想像していたよりはるかにモノがいい。コントロールが意外にまとまっているというのが正直な感想だ。高校野球の場合、ストライクゾーンが広いから心配していたが、そんな不安を吹き飛ばした。腕の振りがいいから、打者はボールが見づらい。誰かに例えるなら、「スライダーが消える」と打者に言わせた巨人の杉内俊哉だろうか。1年間を乗り切るスタミナがあるかどうかだが、星野仙一監督のことだからうまく使っていくだろう。

 そして、もう1人。大穴だ。ロッテのドラフト5位、井上晴哉。指名された当初は「巨漢」だけが注目されていたが、何とオープン戦の首位打者になった。バッティングはアッパースイング。プロのキレのあるボールには通じないのではないかと思っていたが、予想をはるかに超えた。シーズンに入って若干、苦しんでいるが、自分のポイントまで引いてきて打つ打法は、同じようにアッパースイングだった落合博満(現中日GM)を感じさせる。その風貌も合わせて、今年も新顔たちが球界を大いに楽しませてくれそうだ。

▲巨人の次代の正捕手として期待される新人・小林。今季、どのように育てていくか注目だ[写真=内田孝治]

堀内恒夫の多事正論

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レジェンド堀内恒夫の球界提言コラム。

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