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Vol.41 佐野皓大[大分・投手]

 

大分は今夏、春夏を通じて初の甲子園出場を決めた。原動力となったのは、春の九州大会で最速150キロを計測した右腕エースだ。「球速」が取り沙汰される中でも、夏の地方大会では勝利に徹しスピードは封印。個人的な欲を我慢する中で、新たな投球スタイルの構築につながった。

 夏の甲子園での129球。日本文理との1回戦で敗退したものの、将来を見据えた部分では有意義な一戦となった。中盤以降、疲労からやや右ヒジの位置が下がった。これには賛否があったが、私は大正解だったと思う。つまり、腕の振りやすい位置をつかめたからだ。それまでは腕を柔らかく使えるがあまりに上半身頼みだったが、下半身との連動性が取れるようになった。もともと股関節に柔軟性があり、左足のステップがキッチリ取れれば、投球フォーム(8.5)の魅力はさらに増す。



 対右打者のアウトローへ球の伸びのいいストレート(8.5)、スライダー(変化球=8.5)を投げ込む。ただ、制球力(8.5)という点ではストライクゾーンに集めるのが精いっぱいのところ。だが、抜群の脚力を生む体全体のバネ、球質の良さを甲子園でも証明したように、体作りがうまくいけば、投球術(8.5)の精度は高まっていくに違いない。

 投手とは投げているだけではない。「9人目の野手」という中で、守備力(8.5)を含めたけん制、フィールディング等の周辺部分は今後、やるべき課題が山積している。打球に対する一歩目のスタート、一塁前のゴロへのベースカバーら、細かな部分まで追求してほしい。吸収力が早いので、急成長も期待できる。

 マウンドでの立ち居振る舞いは、まさしく勝負師の目をしている。打者へ向かっていく姿勢も良く、投手らしいメンタル(9.0)の持ち主。これから厳しい世界で精神力を磨いていけば、今以上に躍動感も出る。

 甲子園敗退後に報道陣の前で「プロ一本」を明言。もちろん、今秋のドラフト対象であり、当日の状況によっては「外れ外れの1位」で指名される可能性もある。すなわち、球団ニーズによって「将来性」(10.0)に切り替えるならば、2位では残っていないかもしれない。そこで獲得球団は、育成プランを熟考する必要がある。1年間、プロで投げていく体力(8.5)には乏しい。最大のテーマは「何年間で体作りを完了させ、何年後に一軍デビュー」という青写真を描くか。大股に走るその姿は、新庄剛志(元日本ハムほか)を彷ふつとさせる。脚力を基盤に、新人合同自主トレからキャンプを通じ、どれくらい走り込みができるか。

 総合的(9.0)な面としては原石である。マウンド経験も少ないが、冒頭でも書いたように甲子園での1試合が大きな収穫となったはず。今春の九州大会で自己最速150キロを計測。しかし、県大会では勝利を最優先するために、球速にはこだわらなかったという。春夏通じて同校初の出場を決めて、甲子園では晴れて「150キロ超え」を明言。初めての大舞台で気持ちも高ぶり、速球が欲しかったところだが、自分を見失わなかったのは評価できる。

 試合序盤から相手打線に自慢の真っすぐをとらえられる中で、自分のスタイルをもう一度見直した。結果的にヒジが下がったかもしれないが、これが吉と出た。並の投手ならフォームがバラバラになるところを、試合中に修正して見せたのだ。育成次第では、今季ブレークした日本ハム・上沢(高卒3年目)のように、長い目で見ることが望ましい。

■採点表
投球フォーム 8.5
ストレート 8.5
変化球 8.5
投球術 8.5
制球力 8.5
守備力 8.5
メンタル 9.0
体力 8.5
将来性 10.0
総合力 9.0
合計 87.5
※採点の基準は2014年のドラフト対象選手

PROFILE
さの・こうだい●1996年9月2日生まれ。大分県出身。182cm 70kg。右投右打。小学4年時に渡町台リトルヤンキースで野球を始める。鶴谷中時は大分南シニアに所属し、九州大会4強。大分では1年秋からエースで、2年秋からは四番も務める。春の九州大会準々決勝(対東福岡)で自己最速150キロを計測。今夏の甲子園は1回戦敗退(対日本文理)。
プロフェッショナルレポート

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元巨人チーフスカウトで現在はベースボールアナリストとして活動する中村和久によるドラフト候補生の能力診断。

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