週刊ベースボールONLINE


第35回 待たれる打者のスター ――新たなファンを開拓する投打のドラマの創出

 

 投打の「二刀流」に挑戦している日本ハム大谷翔平が「マツダオールスターゲーム2014」(7月18日・西武ドーム、同19日・甲子園)の監督選抜で、投手として選ばれた。大谷は昨年に外野手としてファン投票で選出されており、投手と野手の両部門で選ばれたのは、近鉄の関根潤三以来2人目の快挙となった。

 当初、賛否両論のあった大谷の二刀流だが、2年目の成長で周囲の否定的な声をシャットアウトしつつある。2割8分超の打率をマークし、長打率も5割を超えるなどパンチ力も申し分なし。得点圏打率4割弱という数字は、立派のひと言だ。かけがえのない打線の“駒”になっていることは間違いない。

 一方の「投」は、「打」よりも華やかだ。次々と白星を積み重ね、防御率も2点台でパ・リーグ同部門の上位に安定。相手打線の主砲クラスに160キロ超の剛速球で挑む姿は、紛れもない明日の「スター」の可能性をうかがわせる輝きを放っている。

 20歳になったばかりの末恐ろしい逸材は、プロ入り前に本人が熱望していたように、いつかはメジャー・リーグのドアをたたくことがあるのかもしれない。大谷が「日本でやり残したことはない」と思う日が近い将来にくれば、海を渡るのは自然の成り行きだ。

 2011年のオフ、日本ハムのダルビッシュ有が「他チームから『打てない。投げないでくれ』というような話を聞くようになった。日本での試合で燃えるモノがなくなった」という言葉を残して、メジャーに挑戦した。昨秋には、田中将大が無傷の24連勝という圧倒的な成績で日本球界に別れを告げた。彼らが新天地を求めた理由は、日本にはもうライバルがいなくなったからだ。

 プロ野球に“名勝負”が見られなくなってから久しい。存在感を放った巨人王貞治長嶋茂雄の「ON」に、江夏豊村山実(ともに元阪神)ら闘志むき出しで相対した選手がいたように、今はタレントたちによるぶつかり合いがなくなった。単なる数字だけではない、個々のドラマがなくなったことが、プロ野球人気にブレーキをかけている一因でもある。

 2年連続の球宴の選出に、大谷は「すごくうれしい。いろいろと勉強できることもあるし、頑張りたい」と声を弾ませた。打ち取りたい打者は、6月11日の交流戦(札幌ドーム)で2安打を許した巨人の阿部慎之助だという。「阿部さんに打たれている印象がある。ぜひ対戦したい」と、160キロ右腕はリベンジを誓う。因縁は、ファンを盛り上げる名勝負のスパイスとなる。

▲今年のオールスターに投手として選出された大谷。若き速球王に伍する野手の台頭も待たれる[写真=神山陽平]



 大谷をはじめ、藤浪晋太郎大瀬良大地ら、スター性を感じさせる若手はいる。だが、投手に集中しているのがネックだ。投打で盛り上がるためには、野手のスターもそろい踏みすることが不可欠だろう。「何が何でも打つ」「あいつにだけは負けない」という投打のドラマの創出は、きっと新たなファンを開拓する。そういう循環が成立すれば、日本で燃え尽きる選手も減り、メジャーへの流出も減ることにつながる。泥臭さくとも気骨のある、実力のある打者の出現が待たれる。
日本球界の未来を考える

日本球界の未来を考える

週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング