阪神が誇る「代打の神様」は7月13日の巨人戦で大仕事をやってのけた。東京ドームを揺るがした代打逆転満塁弾が生まれた1日を追った。代打の心のありようとは、周到な準備とは……。プロ18年目のベテランの歩みにはライバルがいた。恩師がいた。「自分」との戦いの軌跡をたどった。 遠征先のカード最終戦がデーゲームだと実にせわしい。東京ドームでの熱戦を終えた
関本賢太郎はチームバスで宿舎に引き揚げ、さっとシャワーを浴び、すぐに新幹線に飛び乗った。向かう先は名古屋だ。息つく間もなく次の日には
中日と戦う。柔らかいシートに身を委ねながら、つかの間の休息に浸る。だが、いつもと様子が違う。携帯電話が鳴り続け、トンネルを抜けるたびに祝福メールは増えていく。
「みんな、よう見ているね、日曜日のデーゲームなのに」。まるで人ごとのように感心する。名古屋で夕食を終えると、宿舎のベッドに入る。何事もなかったかのように、すぐに眠りに落ちた。
「打ったときでも、夜もめっちゃ寝られる。結果で気持ちが左右されると、とてもじゃないけど持たない」。ヒーローになった選手は興奮が冷めず、寝られないことが多々ある。だが、ベテランは違う。感情の起伏を抑えて、長丁場のシーズンを過ごす。
7月13日も代打の切り札として、普段どおり、準備に徹していた。プレーボールの瞬間から頭脳がめまぐるしく動く。視線は巨人先発の
澤村拓一へ。
「3回までは相手投手の出来をずっと見ています。球のキレ、制球、投球パターンや投手のしぐさや汗の量……。いつも出ているクセが出ているか、捕手の配球の傾向……。チェックするところはいつも同じ」
序盤は150キロ台を連発し、比較的、低めへ制球されていた。巨人が先制し、優位に勝負を運ぶ。関本は、動き始めは4回と決めている。ストレッチして走る。ティー打撃で汗を流す。
「いつも6回の攻撃に間に合うように準備しています」
粛々と作業を進め、6回からは自軍の打順も確認。顔ぶれから出番を逆算し、走者、アウトカウント、点差などもシミュレーションしている。マウンドの澤村は中盤、球速は140キロ台後半に落ち高めに浮き始めていた……。
1打席勝負の代打には独特の難しさがある。12年から専任となり「代打の神様」の
桧山進次郎(現野球評論家)に学んだことも多い。あるとき、心構えを聞いた・・・
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