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プロ野球デキゴトロジー/9月8日

怒りも原動力に巨人が史上最速優勝【1990年9月8日】

 

吉村(背中)をホームベースで出迎える藤田監督(右側でバンザイをしている)


 プロ野球の歴史の中から、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は9月8日だ。

 いま広島ソフトバンクが優勝へ向けて急加速しているが、今年もやっぱり抜けなかったのが、リーグ優勝の最速記録である。

 1990年9月8日、2期目2年目を迎えていた藤田元司監督率いる独走巨人の優勝は、劇的に決まった。

 舞台は本拠地・東京ドーム。巨人・宮本和知ヤクルト川崎憲次郎の両先発が一歩も引かぬ投手戦を演じ、2対2のまま延長戦に突入する。

 10回裏一死で打席に向かったのが、前年の9月2日、右ヒザじん帯断裂の大ケガから奇跡の復活を遂げていた巨人・吉村禎章だ。

 実は、あのときの投手も川崎。すでに2位・広島が敗れた知らせは入っていた。勝てば、優勝。ただ、吉村の中に特別な気負いはなかったという。

 2ストライク0ボールからの3球目だった。川崎の甘いストレートに自然にバットが出る。打球はライトスタンドに一直線。サヨナラ本塁打だ。満員の東京ドームが一瞬にして沸騰した。

 小さなガッツポーズを何回もしながらホームを踏もうとした吉村を先頭で待っていたのが藤田監督だった。

「これ以上の勝ち方はありません。吉村の底力、技術の高さを示したホームランでした」

 球界の紳士が珍しく興奮していた。前年の89年に続き、2年連続の優勝。「去年より今年のほうがうれしい。勝った実感があります」と満面の笑顔で声を弾ませた。

 この時点で2位・広島には19.5ゲーム差、最終的には22ゲーム差をつける大独走だったが、藤田監督は「数字ほどは楽じゃなかった。一番苦しかったのは、開幕のとき、怒りをグラウンドにぶつけてやろうと必死にやった」と言って、少し言葉を詰まらせた。

 開幕前、登板日漏えい疑惑で桑田真澄が1カ月の謹慎処分。その際、巨人への過剰なバッシングや桑田の人格を否定するような悪意にあふれた報道に藤田監督はキレ、一時は報道陣と冷戦状態になった。ただ、それが最後まで手綱を緩めることなく、優勝ロードを駆け抜ける原動力になったのかもしれない。

 なお、宮本の胴上げ投手は前年の優勝、日本一に続き、3回連続。不思議と優勝シーンに縁のある左腕だった。

写真=BBM
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