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追悼・星野仙一

追悼企画39/星野仙一、野球に恋した男「不思議な日本一だった」

 

 星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。
 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略)

闘将が明かした本音


武田氏との対談風景


 少しだけ連載担当者の話を書く。

 この原稿は3月11日にアップした。2011年、東日本大震災があった日だ。

 あの日、東京の会社で仕事中だったが、ビルが大きく揺れ、棚の本がすべて落ちた。電車が動かず、朝まで会社で過ごした。

 その後、もう自分のことはどうでもいいくらいの光景を、何度も何度も、テレビ、新聞、ネットで見ることになる。恐怖や悲しみとともに、なぜかは分からないが、自分が被災地におらず、傍観者であることが申し訳なくなってきたことを思い出す。

 今まで当たり前のことが当たり前でなくなったとき、心の中に小さな空洞ができた。途方もなく大きく、途方もなく残酷な力の前での人間の無力さを見て、心の中で何かが消えたような気がした。

 星野監督、楽天の選手は、私などが比べてはいけない、大きな、大きな穴ができたのではないだろうか。

 自分たちに何ができるのか、何をしなければならないのか。長い間、何度も自問自答をしたはずだ。

 少し時間はかかったが、2013年の優勝、日本一は被災地の方だけではなく、星野監督、球団関係者、選手のために本当によかったと思う。

 たぶん、あの優勝がなければ、田中将大のメジャー行きも、もう少し先になっていたはずだ。

 話を戻そう。

 以下は優勝翌年、2014年開幕前のインタビューだ。聞き手は明大の後輩で、中日で監督、選手の関係になったこともある野球解説者の武田一浩だ。旧知の武田がインタビュアーだからかもしれないが、星野監督の話には、連覇に向けたギラギラとした思いは、あまり感じられない。

「とにかく選手がひたむきだった」


武田 昨年(2013年)と比べて、チームの雰囲気はいかがですか。

星野 キャンプのときからすごく感じていることだけど、チームが明るくなったよね。それは間違いなく昨年の間違ってというか、あの不思議な優勝を経験したことで生まれた自信みたいものなんだろうな。

武田 昨年の日本一は不思議でしたか。

星野 不思議だよ。俺にしてみたら不思議な、不思議な13年だったよ(笑)。だって開幕前なんかはソフトバンク西武オリックスが強いぞって言われていて、ウチなんかはそれこそ4番手、5番手ぐらいの評価だったろう。そんなチームが日本一までいったんだから。やっぱり野球はやってみないと何が起こるか分からないし、面白いよな。

武田 僕に8月ぐらいに球場でお会いしたときに「これ、優勝するかもしれないぞ」ってボソッと言われていましたよね。

星野 ああ、言ってたな。

武田 それから会うたびに「なんで強くなったのか分からない」と(笑)。

星野 俺はそこで「監督の力でしょ」ってお前にずっと言ってほしかったんだよ(笑)。

武田 あっ……(苦笑)。

星野 お前は本当に気が利かないヤツだよな(笑)。いつそれを聞けるかと思っていたのに。

武田 大変失礼しました(笑)。それでも昨年の楽天はシーズン中盤からどんどん強くなっていきましたよね。

星野 そうだな。本当に夏の甲子園の高校生みたいに、勝っていくうちにどんどん強くなっていったよな。

武田 優勝候補だったソフトバンクやオリックスが失速して、するりするりと楽天が首位に立っていました。

星野 ほかのチームのリズムが悪い中で、ウチがそこで確かに勢いに乗れた部分はあった。あとは、とにかく選手がひたむきだったよな。1つ勝つのに貪欲だったし、その積み重ねが最終的に実を結んだんだと思う。


「『2戦目に投げたい』と田中は言った」


武田 でも、こんなこと言ったら失礼かもしれませんが、僕はさすがに日本シリーズは勝てないだろうと思っていました。監督自身は正直、あの巨人に勝てる自信はあったんですか? 本音の部分が聞きたいです。

星野 正直……いい勝負はすると思っていたよ。実際にそうなったわけだけど。あとは俺自身、相手が巨人ということで、ものすごくモチベーションが高かった。もしあれが巨人以外のチームだったら、あそこまで燃えるものはなかったのかな、と。

武田 監督の闘志みたいなものが選手にも伝わっていたんでしょうね。

星野 あと、これは今だから話せることだけど、田中(将大)が「2戦目で投げたい」と言ってきてくれたことで、これで「いけるぞ」と思えたんだよね。

武田 あれって……田中のほうから2戦目って言ってきたんですか。

星野 そうだよ。普通のセオリーなら仙台での第1戦に田中を投げさすわな。俺はそれでいいとも思っていた。それでもCSからの登板間隔もあったから、一応、ヨシ(佐藤義則投手コーチ)に田中に「何戦目がいいんだ」と確認の意味で聞いてこいと言ったんだよ。

武田 そしたら2戦目がいいと。

星野 そうなんだよ。俺は田中の投げたいところで投げさせたいと思っていたから2戦目って聞いて「よっしゃー!」って。これで俺の中で巨人に勝つための計算が立ったんだよ。日本シリーズって第1戦で投げちゃうと、その後は日程的にどうしても起用法が先発に限られてしまうんだよね。その点、第2戦だと移動日を挟んで中2日空ければ、勝敗の展開によっては田中を今度はリリーフとしても使える。結果的に第1戦は則本(昂大)で負けはしたけど、アイツもすごくいいピッチングをしていたし、次は田中がいたから実際はそんなにダメージは感じていなかった。

武田 なるほど。実はそれをずっと聞きたかったんですよ。なぜ、田中が第1戦じゃなかったのかって。もう監督は好きなところで投げろという感じだったんですね。

星野 そう。それにアイツは「この日に投げたい」と言った試合は必ず良い仕事をしてくれていたから。逆に「いや〜」って言うときは、あんまり良くない(笑)。だから、本人に選ばせることが一番良い結果を生むとずっと考えていたから。

<次回へ続く>

写真=BBM
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