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夏の甲子園 名勝負列伝

逆シングルのグラブが吸い込んだ“沖縄の夢”/夏の甲子園 名勝負列伝

 

いよいよ100回目の夏の甲子園が始まった。『週刊ベースボール』では、オンライン用に戦後の夏の甲子園大会に限定し、歴代の名勝負を紹介していきたい。

強い浜風でなく……


虎の子の1点を守り切り、4年ぶり2度目の優勝を決めた天理


1990年8月21日
第72回大会=決勝
天理(奈良)1−0沖縄水産(沖縄)

 沖縄に初めての大旗を――春夏通じて県勢初の決勝進出に県民、近畿近辺に住む出身者が大挙して甲子園球場に詰めかけ、5万5000人の大観客で膨れ上がった。

 天理がわずか1点をリードした9回裏、沖縄水産の攻撃である。二死になっていたが一塁線を鋭く破った大城剛が二塁にいた。打席には九番・横峯孝之。3ボール1ストライクから思い切り振った一打は、左翼線後方へと伸びていく。だれもが「抜けたッ!」と思った。だが、背走した左翼手・小竹英己が最後はジャンプして差し出した逆シングルのグラブに、すっぽり白球が吸い込まれ、沖縄の夢は消えた。

 沖縄水産に、横峯に不運だったのは、右翼から左翼へ吹く甲子園特有の強い浜風が、この日に限り、逆の六甲山側からの風(通称“雨風”)に変わっていたことだ。

 試合は沖縄水産が有利に進めていた。天理の4回の1点は死球のあとの小竹が右翼線に二塁打し、大仲友章の中犠飛で挙げた。以後、二塁を踏んだのは一度だけ。言ってみればワンチャンスを生かしたものだ。

 対する沖縄水産は三者凡退が2、8回の2度。天理のエース・南竜次(のち日本ハム)は毎回のように走者を背負い、苦心の投球だった。それでも沖縄水産を振り切れたのは、守備陣の頑張り、南の巧みなマウンドさばきにあった。

 4年ぶり2度目の制覇にも天理の橋本武徳監督は言った。「内容ではウチの完敗。ただ勝負に勝っただけ」と。一方の沖縄水産・栽弘義監督は笑いながら選手たちに「泣くんじゃないよ。こんなにいい試合をしたんだから」と声をかけ、頑張りを称えた。

 沖縄水産は翌年夏も決勝進出したが大阪桐蔭に敗れ、悲願達成はまたも持ち越された。

写真=BBM
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