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2018甲子園

横浜戦で金足農・吉田輝星が見せる新境地

 

ストレートに3段のギア


金足農はエース・吉田の活躍で、23年ぶりの3回戦進出を決めた


2018年8月14日
第100回=2回戦
金足農(秋田)6−3大垣日大(岐阜)

 まさしく、ホップしてくる。ネット裏から見ても、金足農・吉田輝星のストレートは浮き上がってくる独特な軌道を確認できる。分かっていても打てそうにない厄介なボールだ。

 大垣日大との2回戦は序盤3イニングで点を取り合い、3対3。以降は、両チームゼロ行進のまま終盤を迎えた。吉田は走者を出しながらも、要所で粘った。

「ここで辛抱強く投げていけば、勝ち越してくれる。疲れ? ありましたが、自分だけのチームではないので。自分が(ゲームを)終わらせるわけにはいかない」

 吉田の投球パターンには、ストレートに3段のギアがある。走者なしなら「ギア1」で、138キロから142キロを投げ込み、走者一塁もしくは三振を狙う場面では「ギア2」で、143キロから145キロ。そして、得点圏に走者を背負った際には「ギア3」145キロ以上で「全開」となる。

 8回表に味方の勝ち越しソロ本塁打(4対3)が飛び出すと、「目が覚めた。ここでもう一度、切り替えよう」とトップギアに入れたのである。つまり、走者なしからでも「全開」と新たな境地に挑戦したのである。

 8回は三者連続三振。9回も3人で簡単に片づけ、格の違いを見せつけた。154球を投じたが、球威が衰えることはなかった。吉田は「キャッチングがうまかった。(ホップしてくる球筋で)ミットを動かしたら、球審への印象が悪くなる。キャッチングは『止める』という意識だと思います」と、コンビを組む菊地亮太を称えた。しかし、この絆ができるまでには、血のにじむような努力があった。

 2年秋からバッテリーを組む菊地は「目が慣れない。追いつけない」と、吉田の真っすぐに四苦八苦。学校始業前、早朝6時にグラウンドに出て、ピッチングマシンを145キロに設定し、さらに通常よりも2〜3メートル前に出して、捕球練習に励んだ。また、可能な限り、吉田のボールをブルペンで受けて、体で覚えた。

 ようやく自分の「形」で捕球できるようになったのは今春の東北大会後(6月)。つまり、この2カ月で急成長を遂げたのである。

 金足農は23年ぶりの3回戦進出を遂げ、次は花咲徳栄(北埼玉)の夏連覇を阻止した横浜(南神奈川)と顔を合わせる。全国屈指の強力打線と対峙するにあたり、吉田は覚悟を決めた。

「これからは、対戦したことのないような厳しい戦いになる。序盤で体力を使い果たしてもいいくらいに、初回から全開でいきたい」

 立ち上がりからトップギアでいく。秋田大会を通じて、全7試合を一人で投げ抜いてきた。野手を含めても、金足農は一人の交代もない。これまでは「先発完投」を念頭にしてきたが、後先を考えない。経験のない領域でどんな力を発揮するのか、興味は尽きないところだ。

文=岡本朋祐 写真=石井愛子
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