今年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 阪急の忍者戦法
今回は『1964年6月8日号』。定価は50円だ。
好調阪急の秘密に“忍者の飛び道具”という記事があった。
これはネット裏のスコアラーがワイヤレスマイクを使い、投手の傾向や審判のジャッジ傾向を伝えるというもの。画期的な新戦略とベタぼめしているが、要はスパイ行為だ。
ただ、当時なりに気を使ってはいたようで、阪急はパ・リーグ事務局に違反行為ではないかの問い合わせをし、「問題なし」の答えをもらい、加えて「決してサインを盗むような行為はしない。ネット裏からベンチに情報を提供するだけ」と強調していた。
いまなら違反という点では国鉄・
金田正一の投球もすごいことになっていた。
5月23日の巨人戦だ。
この試合で巨人・王貞治は金田から20、21号の連続本塁打を放ったのだが、記事ではそのうち21号を写真で追っている。
金田は王の一本足を崩そうと、振りかぶったまま9秒ほど静止。だが、王は足を上げずにじっくり待って、一転して投げ込んだ金田の球を、ほぼすり足で右中間スタンドにホームラン。
まさに手がつけられない状態になっている。
カネやん節、炸裂?
2人の対決を伝える記事
この対決について金田のコメントがないか、連載「プロ野球なで斬り帳」を見た。
タイムラグがあるのか触れた個所はなかったが、「怒り」をテーマにした回でなかなか面白い。
5月13日の
広島戦で試合中、チームメートのエラーに激怒し、怒鳴りつけたらしい。
ただ、それはエラーに対してではなく、エラーした選手がベンチでヘラヘラ笑っていたからだ。
少し長めになるが、抜粋し引用してみる。個人的な趣味を出して恐縮だが、結構、カネやん節は気に入っている。
試合をしている者はしている者、ベンチにいる者はベンチにいる者、という十年以上もワシが国鉄で経験してきた物足りないものが感じられた。それが頭に来た。
グラウンドへ出ている者も、ベンチにいる者も、監督も一心同体になってやる。
それで勝ったら抱き合って喜ぶ。そういったものがワシはほしい。
役者は演技で泣いたり笑ったりする。腹の中と、オモテに出るものとは違っても、誰もそれを疑わん。
プロ野球でも、そういう演技をやる人がいるかもしれんが、ワシにはそれができん。怒ったら本当に怒って、それをぶつけていく。そういう真剣味が出てくるのを抑えることができん。そういう真剣味が、プロ野球の素晴らしさやと思っているからや。
ワシが怒るのは、チームを滅茶滅茶にしようなどと思っているわけやない。
ワシが怒ったのにこたえて、みんながハッスルしてくれたらそれでいいんやと思っている。しかしワシが怒るのは少し強すぎる。強すぎるから萎縮してしまうといわれる。萎縮して、陰でこそこそいうのは、ワシは一番嫌いや。
ワシは強すぎるかもしれんが、いいほうに解釈して、カッとしてくる人がいてくれれば、ワシはワンマンといわれないですんだんやないかと思う。
怒るな怒るな、また怒りやがった、と陰でこそこそいうからワンマンみたいになってしまう。ワシは決してワンマンやない。
自分ひとりでは勝てんことは、自分でもよく知っている。ワシにも至らんところはあるけれども、ワシよりもっと至らん者がいるのや。
人はみな性格が違う。十人が十人違う者を統率していくということはむずかしいことやろうけれど、みんなが一心同体になって、精根込めて試合ができたら、こんな面白い商売はない。やりがいのある仕事や。みんなで精魂込めてやれたら、何もいうことはない。
それなのに、ベストを尽くさず、ちゃらんぽんをしてエラーをする。これは、何も国鉄だけやなしに一般の問題やが、ワシはプロである以上、エラーは仕方ないということはいえんと思う。
サーカスは絶対にエラーしない。落ちたら命がないからや。野球もプロである以上、そのくらいの真剣さがなくちゃいかん。エラーして落ちたら命がない。そのくらいの真剣さがあって、ベストを尽くして、一生懸命でやったが、ほんのはずみでエラーした。これなら初めて、仕方がない、といえるんや。
「まあええワイ」
という平和ムードは、勝つためのチームワークとはいえんと思っている。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM