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石田雄太の閃球眼

原辰徳流のびのび野球とは?/石田雄太の閃球眼

 

10月23日、3度目の巨人軍監督に就任し、「のびのび野球」を標榜した原辰徳新監督。秋季キャンプでも元気な姿を見せている


 普通は“ミソソミド”だろう。
 
 ところが、この人がこの言葉を語ると、こうなる。

“ファドドラファ”――。

 3度目となるジャイアンツの監督就任に際し、原辰徳は記者会見でこの言葉を何度も繰り返した。

「のびのびと」。

 普通、この言葉を平易に話せばその音階は“ミソソミド”あたりに落ち着く。しかし、原監督が会見で「のびのびと」と言ったときには、決まって音階が上がって“ファドドラファ”になっていた。音階を上げて強調した「のびのびと」という言葉を、原監督はこんな流れで口にした。

「ジャイアンツというチームは、チームが勝つこと、これが最大なる目標であり、目的です。そのメンバーに値するだけの選手が誰なのか。言葉は適切ではないかもしれませんけど、巨人軍でなければならない。個人軍、個人であってはいけない。束ねられる一人ひとりの力をしっかりと見極めて、誰と戦うのがジャイアンツにとって一番なのかというところをしっかり見極めて、観察し、チームを作っていきたいと思います」

 そう言ったあと原監督はそのまま、こう言葉をつないだのだ。

「で、ひとつ、選手たちに言いたいのは、今、僕の言葉というのは堅っ苦しく伝わっているかもしれませんけど、原点……スポーツ、野球の原点である、のびのびと、のびのびと楽しむ、と。のびのびと楽しみ、勝っては喜び、負けては悔しがる。こののびのび野球という部分を、原点に戻るという点で目標として持った形で前に進んでもらいたいと思います」

 のびのびと。

 音階を上げてまで強調したこの言葉に、原監督は何を託したかったのか。思い浮かんだのが、2002年、原が初めて監督に就任した直後に聞いた、こんな言葉だ。

「これだけ戦力の整ったジャイアンツで、レギュラークラスに競争は必要ない。僕は、競わせたり、試したり、いい結果を出す選手を待つというのは、程度の低い野球だと思っています。競争なんか、クソくらえでしょう(笑)」

 しかし、選手をオトナとして扱い、選手の自覚に任せる野球がうまく機能しなかったこともあり、二度目の就任に際しては、一転、管理野球を打ち出した。そのときの原監督はこう話していた。

「監督の仕事には二つの側面があるんです。それは、選手を試合で動かすことと。選手を練習で鍛えること。選手を動かすにはそれぞれの役割をきちっと決めてあげることが大事なんですが、その役割を任せられるようになるまで鍛えることも大事なんです」

 役割を決めて任せるのはまだ早い、オトナになり切れていない選手たちを鍛え、競争させ、見極めるという管理野球に舵を切った結果、ジャイアンツはリーグ3連覇を成し遂げた。しかしそうした原監督の厳しく、冷徹な野球に息苦しさを覚えていた選手も少なくなかった。この3年間、“兄貴分”が監督となったジャイアンツの選手たちは、原野球の厳しさから逃れ、悪く言えば気ままに野球をやっているようにも見えた。以前、野村克也さんが、自身が監督に就任する前のスワローズを評して、こんな話をしていたことがある。

「今度こそ、今度こそと言って同じミスを繰り返す。アウトローを狙って投げる。そのボールが高めに浮いて、一発をくらう。今度こそといって、同じアウトローを狙う。また、高めに浮く。当たり前だよ、何も変わっていないんだから……そこには工夫とか研究とか、高めに浮く原因を探ろうという意識がない。それが、のびのび野球というヤツの正体です」

 のびのび野球というと、自由気ままに野球をやるイメージが付きまとう。昔のスワローズはそういう類の野球だったのだろう。しかし、原監督の言う「のびのび野球」は、自身が以前に打ち出した管理野球の対極にあるものではないような気がしてならない。会見での原監督の話を整理すると、まず野球を個人としてのびのびと楽しむ段階があったというところが原点にあり、次に、束ねられたチームとして、勝つための厳しさを知るという段階がある、と聞こえる。そして、その先の話になる。

 個人軍が巨人軍になり、野球がうまいだけの野球少年たちが、勝つために必要な厳しさを身にまとい、オトナになる。そんな選手たちが、今度こそ、のびのびと野球をする――つまり原流ののびのび野球とは、管理野球のさらに先にあるものなのだ。以前に口にした「競争なんかクソくらえ」というチームこそが原監督が思い描く“究極のジャイアンツ”だとすれば、だからこそ原監督は所信表明の席で、あえて音階を上げて“ファドドラファ”と謳い上げたのである。

文=石田雄太 写真=BBM

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