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舞台裏の仕事人

野球少年、少女の未来を見つめる楽天・後藤光尊/舞台裏の仕事人

 

スポットが当たることはほとんどないが、野球界に欠かせない縁の下の力持ちである“裏方”を紹介。今回登場するのは、オリックス楽天で内野手として活躍した後藤光尊さんだ。現役時代には左の巧打者として活躍した“孤高の男”だったが、今は穏やかな表情で野球少年、少女と向き合っている。そして解説の仕事では、これまでとまったく違う視点で野球と接している。

“基本”の大切さを子どもたちへ伝授


楽天・後藤光尊アカデミーコーチ


 厳しいプロの世界に身を置き研さんを積んできた。基本を大事にする努力家はアカデミーコーチ、解説者として活躍する今も、考えることを厭わず、常に学ぶことを忘れない。寡黙なイメージが強いが、この1年で大きな変化があったようだ。

 アカデミーコーチを始めて2年目になりますが、現役のときに比べると性格が柔らかくなったかなと感じますね。言葉遣いなども。教える側が子どもなので、分かりやすくかみ砕いた言葉を使いながら、かつ集中力が持たないので、飽きさせないようにしなくてはいけませんからね。

 僕の仕事は、平日の昼過ぎに出社です。その後、その日のメニューを印刷して、16時くらいに室内練習場に向かい、アシスタントの方たちと練習前ミーティングをして、16時半からスタート。いくつかのスクールを指導し、終わるのは21時半ごろ。帰宅するのは22時過ぎですから、現役のときとあまり変わらないですね。3月に1年間のカリキュラムをコーチ全員で作って進めていくので、それに沿って指導をしていきます。

 僕は小さいころ、ラグビーや水泳もしていましたから、野球の教え方とは少し違う視点を持つこともできますし、ラグビーの動きをトレーニングに取り入れたり、指導する上ではメリットが多くあります。ただ、同じことを言うにしても、どこの部分から突いていくかというのは難しいところ。ですので、僕はまず一番良いところから言うようにしています。そうすることでこちらを向いてくれますからね。得意、不得意はそれぞれですから、良いものを伸ばしてあげられるように、少し足りていない部分を補えるような指導をできればと思ってやっています。

 最近では、さまざまなスポーツに触れている子が多いんです。野球とサッカーを掛け持ちしていたり。ですので、まずは正しい体の使い方、正しい走り方というのを身につけてもらえたらいいなと思っています。基本をしっかりやることでケガのリスクは減らすことができますから、それが一番。小さいうちからケガを重ねてしまうと、大きくなったときに弊害が出てきます。そうすると長く続けられないですからね。ただ、教えるには責任も伴いますから、引退後はいろいろ勉強もしました。走る形という部分では分からないこともありますから、陸上をやっている方に話を聞いたりもしましたね。

 一番やりがいを感じる瞬間は、子どもたちができたときの顔を見ることができたとき。長いこと打てなくて悩んでいる子とかを指導していて、「あれ!?」って気づいたときの顔。やっぱり違うんですよね。その表情の後からはがらっと動きも変わるんです。これは自分が現役時代に感じていたのとはまた違った喜びがあります。自分ではなく子どもたちに対して、いいきっかけを与えられている。そのやりがいはありますね。

いつか自分のチームを。そのために日々勉強中


楽天・後藤光尊アカデミーコーチ


 現役のころは野球の試合を見なかったと言うが、解説を始めてからはよく見るようになり、自然と解説も耳に入ってくるのだという。さまざまな視点で見ることで、「野球は難しい。だから面白いんでしょうけどね」とあらためて野球の奥深さを知った。

 今は解説の仕事もさせてもらっています。解説は勉強になりますね。これまではグラウンドでの目線で見ていたのを、今はスタンドの上から全体を見ることができるので、最初に見たときは、野球って面白いなと思いました。

 初めのころは内野ばかりを見てしまっていたんですけど、数をこなしていくうちに、状況やカウントとかも踏まえながら、「ここで盗塁をするんじゃないかな」、「ここはスクイズかな」というだいたいの流れを、少しずつ予想できるようになりました。ただ、オリックス時代に監督と選手として一緒にやっていた岡田彰布さんと解説をやらせてもらったときは、すごいなと思いました。戦術とかに関してズバズバ当たるんですよ。去年、岡田さんとやらせてもらったときは全然しゃべれなかったんです。岡田さんの話を聞きたいなというのもありましたし。

 でも、今年の4月にご一緒させてもらった際、僕が言ったことに対して「おお、そうやなあ」と言ってもらったときに、岡田さんが感じたことと同じことを感じることができたこと、そして1年やってきた成長も感じることができました。今年の解説の中で一番うれしかったですね。

 今はコーチとしての仕事がメーンですけど、最近、少し芽生えてきた気持ちは、チームを持ちたいな、と。たった1年ですけど、指導する立場としてやってみて、自分がもしチームを持ったときにこういうふうにしたいなという願望が少しずつ出てきているんです。だから今は自分でいろいろ勉強しながら、引き出しをいっぱい作って、いつか自分のチームを持てたときに、自分の色全開でチーム作りをしたいですね。

 プロ野球という誰もが経験できる場所ではないところで15年やってきたので、良い意味で誇りを持ち、そこで培ったものを少しでも分かりやすく、子どもたちに伝えていければいいなと思っています。ですが、子どもたちにプロ野球選手になってほしいという気持ちはあまりないんです。ここで経験したことを生かしてもらえればいい。子どもたちにはいくらでも将来があります。自分たちで見つけて、自分のやりたいことをやってほしいな、と。その中で、ここでやったことを少しでも心に留めて生活していってもらえればいいなと思います。

 やはり野球は失敗のスポーツなので、いかにそこの失敗のときに前を向けるかが大事。良い形というのは、体が大きくなってくればきちんと自分で再現できるようになってくるんです。でも小さいうちは、言っても頭で理解できないから形にならないことが多い。だから今のうちは、野球が楽しいということ、難しいということ、そしてあきらめないということ。これらを伝えられればいいのかなと思っています。

写真=BBM

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