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舞台裏の仕事人

野球人口回復へ!野球振興に力を入れる西武ライオンズ事業部の取り組み/舞台裏の仕事人

 

各球団の営業努力が実り近年、好調な観客動員数が伝えられているが、その裏で野球人口の減少に歯止めが利かない。そんな状況に西武ライオンズは危機感を抱く。野球人口を回復させるため、あらゆる形で野球振興に力を入れている。その取り組みに関して事業部マネジャー、吉野敦氏に語ってもらった。

より地域に根差した球団へ


事業部マネジャーの吉野敦氏。地域に根差した、フレンドリーシティ制度の充実・拡大、こども支援、地域活性につながる野球振興活動の強化が主な職務内容だ


 今年3月、球団の地域コミュニティ活動を総称する新プロジェクト『L-FRIEDNS(エルフレンズ)』の発足が発表された。より地域に根差した球団を目指すべく、『野球振興』『こども支援』『地域活性』の3つの柱を中心に自治体、学校などと連携。スポーツを行うきっかけの創出や、自由に野球、スポーツができる環境整備への支援などを目的とし、今後も積極的な活動を約束。さらに、同プロジェクトの一環として、埼玉県内の小学校などに通うこどもたち約30万人に、球団オリジナルのベースボールキャップをプレゼントすることになった。

「20年前と比べると、今のこどもたちの体力、運動能力はかなり落ちています。小学生のソフトボール投げの平均も昭和60年(1985年)と平成27年(2015年)で比較すると約7メートル落ちています。それに埼玉県は近年、その平均が全国でほぼ最下位。しかし、それはこどもたちが悪いのではなく、取り巻く環境に起因するものでしょう。やはりキャッチボールができる環境が圧倒的に少ないことが要因の一つだと思います。最近では、こどもたちの知的好奇心をかきたて、自由にボールあそびができる公園が少なくなってきています。

 投げることは体をひねったり、回転したり、複合動作によって行われます。それはいろいろな遊びを通して育っていくのですが、いまは少子化ですし、『時間』『空間』『仲間』の三間(さんま)も減少し、同時にこどもの成長につながる異年齢交流も減ってきています。投力が落ちるとバスケットボール、バレーボール、テニスなど、同類の体の動きのいろいろなスポーツへの選択肢も狭めてしまいますし、もちろん、野球に親しむ機会も減り、ひいてはそれが野球人口の減少にもつながります。

 以前、首都圏5球団の共同事業として『公園キャッチボールプロジェクト』を実施していました。キャッチボールができる公園を増やす事業ですが、当球団では目標数を達成した後も、独自に活動を続けています。さらに数を増やし、その公園で安全にキャッチボールを行うことができる『ゆうボール』などを寄贈しました。また、ライオンズのOBを派遣して、園児・小学生へボール遊びの楽しいやり方を教える活動も行っています。

 こういったことを円滑に行えるのも、埼玉県内の市町と球団がより強固な関係を構築し、相互が発展することを目指す連携協定を結んでいるからです。この協定は、それぞれが持つ資源を活かし、協働してさまざまな事業に取り組むことを通じて、地域社会の発展、住民福祉の向上に寄与することが目的で、『スポーツ振興に関すること』『青少年の健全育成に関すること』『地域振興に関すること』の3つの協働事業項目が柱です」

野球を体験して好きになってもらう


5月21日にはさいたま市とフレンドリーシティ連携協定を締結した(左は居郷球団社長、右は清水さいたま市長


『スポーツ振興〜』は体を動かすことの楽しさやスポーツの魅力を多くの方に実感してもらうことを目的に、学校における授業支援や、野球型スポーツイベントを実施しており、『青少年の健全育成〜』では小、中学校に招待券の配布や、幼稚園や保育園で球団マスコットと園児の交流を行う。

『地域振興〜』では市の施策や広報などにおけるライオンズの商標・肖像の活用や、各催しへの球団マスコット及び公式パフォーマー(ブルーレジェンズ)の派遣、さらにメットライフドームで行われるフレンドリーシティ感謝デーのPR出展も予定している。

 5月21日には埼玉県内最多人口を誇るさいたま市とフレンドリーシティ連携協定を締結。これで県内63市町村中、28市町がフレンドリーシティとなり、人口でいえば約66パーセントをカバーと大きな広がりを見せている。

「少子高齢化、医療費の増大、健康寿命の問題などといった問題もフレンドリーシティの枠組みで解決できることがあります。当然、埼玉県内すべての市町村と『連携協力に関する基本協定』を締結し、フレンドリーシティにしていくことができたらと考えております。やはり、こどもたちのためにも、多くの地域との連携は増やしていきたいです。

 観客動員は伸びていますが、それは何度も球場に来ていただいているファンの方が増えたからでもあります。たくさんのお客様に球場に足を運んでいただくことは、とてもうれしいことですが、野球人口の減少は深刻です。それが進めば、野球のレベルも下がる。そこにも危機感を抱いています。

 昨年から主催試合(一部会場を除く)で野球振興カードを販売し、その収益を野球振興に充てています。ご購入されたお客様には選手のサイン入りグッズが当たる抽選クジも配布。そのために選手から実使用アイテムを提供してもらっていますが、選手に野球人口が減り、人気が落ちる可能性があるということを意識してもらうためでもあります。4月29日の楽天戦では小学生以下のお子様全員に秋山(翔吾)選手のサイン入りキッズグラブを配布しましたが、秋山選手も快く協力してくれました。

 当日、試合前には西武第二球場も開放して、親子キャッチボールのイベントも開催。さらに、試合後もメットライフドームのグラウンドを開放して、マウンドからのピッチングも体験してもらいました。グラブを配布するだけでなく、実際につけて、投げてもらう。野球を体験して、好きになってもらうきっかけづくりは、この先も積極的に行っていきたいと思います。

 とにかくスポーツの力をうまく生かしながら、地域を活性化させ、さまざまな諸問題を解決したい。それに野球は非常に楽しいものです。このスポーツが廃れないように、いま球場に足を運んでいただいている方々が、お父さん、お母さんになったとき、自信を持って自分のこどもに勧められるスポーツであり続けるように、われわれは力を尽くしていきたいと考えています。

写真=BBM

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