プロ入りした1957年に17勝を挙げ新人王となると、背番号が「18」に変わった2年目に29勝、3年目は27勝で最多勝を獲得。V9時代到来前の
巨人でエースに君臨した藤田元司は、18番を背負う者がどうあるべきかを示す模範的な存在である。
その人柄から付いた異名は「球界の紳士」。肩の痛みに苦しみながらも決して弱音を吐かず、トレードの噂が立ってもひたすら屈辱に耐え、ネガティブな感情を表に出すことはなかった。ニックネームの「ガンちゃん」は単に名前の音読みというだけでなく、インド建国の父であるマハトマ・ガンジーから取られたものでもあり、そのことからも優れた人間性がうかがえる。
現役当時の藤田は「人間ができてる、できてる言われるのは恥ずかしいよ」と頭をかきつつ「当たり前のことをしっかりやっていかないと。苦しみながらも、良識で正しいと思うことをやっていかないといかんと思う」と語っていた。身長173センチ、体重63キロ程度の細い体を支えていた良識とは、すなわちチーム愛。
「最後の土壇場に来たら、チーム愛に燃えている選手が一番強いと思う。金だけで働いているようなら、土壇場に来たときに腰抜けになる」
連投を強いられても「苦労が絶えないとか、そういうのはよくチーム愛というものを知らない人の言うこと」と周囲の心配を受け流し、大減俸を言い渡されたときも「金のためだけという割り切った考えにはなり切れんね。やっぱりチーム愛だよ」とキッパリ。
球界の紳士が身を呈して捧げた魂が、巨人の18番には宿っている。
写真=BBM