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【心揺さぶる名言】吉田義男「ボールは操るもの。操られてはいけない」

 


 ゴールデングラブ賞も、その前身のダイヤモンドグラブ賞もまだない時代に守備の名手として鳴らした吉田義男は、プロ野球史上屈指の名遊撃手と言われる。

 阪神入りした1953年に、その魔術のような守備を物語る逸話が残されている。

 プロ入りから間もなく、どんな難しい打球も吸い取るように処理してしまうグラブさばきはチームメートの注目の的に。当時、吉田は立命大時代に使用していたグラブを引き続き使っており、しばらくして出入りの業者に新品を注文しようとしたところ、当時の主力選手・金田正泰が飛んできてそれを押しとどめた。吉田の古びたグラブが、金田にはマジックの道具のように見えたというのである。

 ボールを捕球するやいなやワンモーションで送球に移る身のこなしは「飛燕」と称され、解説者の小西得郎は「捕る前に投げている」と言い表したほど。その全盛期、甲子園には打球がショート方向に飛ぶだけでスタンドから拍手が起こるというプロ野球史上に例を見ない現象が起こり、身長165センチの小兵ながら観衆を魅了する名人芸に付いた異名が「今牛若」。

 捕手のサインから打球方向を予測したという鋭い読みとともに、現役時代に守備の極意として自ら語っていたのが「ボールは操るもの。操られてはいけない」という言葉。

 守備にスランプはない、とよく言われるが、吉田は「出足がワンテンポ遅れて、ボールに操られるような感じがする」と不調を口にすることもあった。グラウンドを支配した名遊撃手ならではの、繊細な感覚である。

写真=BBM

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