先発投手としてのスケール感、唯一無二のパワーピッチングは見る者を魅了する。度重なる腰痛とも闘いながら、新境地に挑み、多くの引き出しを蓄えた6年目の今季へ懸ける思いは一つ。「1年間投げ続け、全力で勝ちにいく」ことだ。 取材・構成=中野聖己 写真=佐藤真一(インタビュー)、BBM 充実したチャレンジのオフ
4度目の腰椎分離症に向き合い、新たな挑戦を試みた昨季を経て、入団以来初めて万全の状態で過ごすことができたオフシーズン。誰もが認めるポテンシャルを最大限に発揮する準備は整った。 ──2026年シーズンが間もなく開幕します。秋季キャンプ、自主トレとケガなく制限のない練習メニューを消化し、新たな取り組みにも挑戦したオフは充実した時間となったのではないですか。
山下 12月には(2004年アテネ五輪ハンマー投げ金メダリストで前スポーツ庁長官の)室伏広治さんと合同自主トレをやらせていただきました。今までは舞洲でリハビリをしていたので、外部の方とのトレーニングはなかなかできていませんでしたが、
吉田正尚さん(レッドソックス)を介して3人で一緒にやらせていただいて。本当に充実したオフを過ごせたので、秋季キャンプからずっとシーズンが待ち遠しいぐらいでした。
──入団以来、人一倍ウエート・トレーニングに取り組んできた山下投手をしても、「スピードもパワーもまったく足りていなかった」と感じたと。
山下 これまでも自分なりに考えてやってはきました。「毎日ああでもない、こうでもないということの繰り返しだ」とある方に言われたことがありますが、本当にそのとおりだなと。トレーニングをする目的も大事ですし、一生懸命やるのはもちろんですけど、ズレていたら成果はありません。ただズレていることも、やらないと分からない。5年間で失敗も成功もありました。まだ5年なので、本当にいい土台はできているのかなとは思います。
──トレーニングに関しての意識、方法自体に変化した面はありますか。
山下 それは毎年変えています。今年は背筋を鍛えるよりお腹のほうを重点的に。背筋ももちろん大事なので、割合を7対3に変更したりしながらですが。メニューの内容は違いますけど、球速アップや体を強くする目的は変わらずにやっています。
──昨季は開幕前のオープン戦時に腰椎分離症を再発。シーズンの大半をリハビリに費やし、9月7日の
日本ハム戦(京セラドーム)で5回11奪三振と圧巻の投球で復活しました。リハビリから復帰までの経過を教えてください。
山下 腰椎分離症の発症は4回目でしたが、あまり前例がないという話でした。日本で腰椎治療の第一人者である徳島大の西良(西良浩一)先生を紹介され、1週間入院して、体の状態を見てもらいながらケアやリハビリを続けていきました。
──想定していたよりも復帰までの期間がかかったというのが実感ですか。
山下 そうですね。ケガ自体が治るのに2カ月ちょっとぐらいだったので、気持ちだけなら正直行きたいなと思ったんですけど、そこから1カ月半ぐらいまたリハビリをして、同時にピッチングもしていきました。
──復帰を焦らないほうがいいという周囲の声もあったのでしょうか。
山下 周りの方の意見もそうですし、自分の中でも正解というか、これをしておけば再発はもうしないという確信はなかったですから。探りながら、正直、1年はあきらめるぐらいに割り切っていました。今年1年我慢して正解を出せば、ここから先の十何年を左右していくと。
──長いリハビリ生活の中ではメンタルの保ち方も難しかったと思います。
山下 4回目なので慣れている部分はあるんですけど、楽しくはないですよね。それでも、自分に対して期待ももちろんしていたので、ケガをして何もしていないわりにはワクワクしていました。その気持ちだけでやっていましたね。
──さまざまなアプローチをする中で、
今井達也選手(現アストロズ)を通じて「鴻江理論」(スポーツトレーナーの鴻江寿治氏が提唱)に出合えたことも大きかったですか。
山下 もともと今井さんとは2、3年目ぐらいから連絡は取らせてもらっていて、鴻江理論の存在は知っていたんですけど、これまで投球フォームを人に見てもらったことはなくて、どちらかというとトレーニングでパフォーマンスを上げるやり方をしてきました。試合で投げない分、試せるチャンスはたくさんあったので、やってみようと。すべてが正解かどうかはやってみないと分からないですし、遠回りしてしまうかもしれないというリスクもあります。それでも、トライしてみるチャンスなのかなと。やってみたら意外とすんなりハマったんです。すぐにファームで結果を残せて、一軍復帰となりました。
──投球フォームの根本的な部分でこれまでと違う気付きがあったのでしょうか。
山下 そうですね。あくまで鴻江理論は「うで体」と「あし体」の2タイプなんですけど、単純にそれだけではない。理論上で言うと、逆のことをやってきた部分があったので、その逆のことを省いてやっていくという感じです。
──腰に負担がかかっていた理由に納得できたところも。
山下 納得しないと自分はやらないタイプなので。まずやる前に話を聞いて、その中で腑に落ちる部分が多々ありました。
──リスクも覚悟しながら、そこにトライしようと思った一番の理由というのは。
山下 もうこれ以上ケガをしていると、野球ができなくなってしまう。正直、野球ができなかったら一緒なので。ケガをしなかったらなんとでもなるという思いだけです。
──変化したのはどの部分でしょうか。
山下 お腹や腰部の角度、使い方ですね。鴻江理論で言うと、自分は「うで体」なので、腹筋型なんですよ。今までは背筋で投げていたのを腹筋でコントロールしていくというところですね。
──実際に手応えはいかがですか。
山下 何年もやってきている投げ方のほうに体が勝手に戻ろうとするのが現状ではあります。まだ取り組んでいる最中なので、完成形とは言えないですけど。それでも理想の動き方は頭の中に入っているので、あとはいろいろなことを試しながら消去法で、こうしたらこう動くというのを探りながらやっています。
ローテを守り勝ち続ける
一軍初登板が開幕投手の衝撃デビューで新人王を獲得した23年以来となる2度目の開幕投手へ、期待も高まるが「何試合目でも自分の開幕に変わりはない」と冷静だ。シーズン完走、チームの勝利に直結する投球を目指していく。 ──春季キャンプ初日にいきなり球速154キロを計測。順調な仕上がりぶりがうかがえました。キャンプではどんなことをテーマに臨みましたか。
山下 キャンプでは自主トレでやってきたことを変わらずに継続して取り組みました。キャンプを通じて500球くらい投げ込みましたけど、肩も消耗品なので、少ない投球数で1年間やっていくのが理想ではあります。ただ、春はやっぱり調子を上げていかないといけないので、球数は大事かなと。先発なのでスタミナも重要になってきます。
──(取材日の3月7日時点で)「球春みやざきベースボールゲームズ」の
ロッテ戦(SOKKEN)とオープン戦初戦の
広島戦(京セラドーム)の2試合で合計7回2/3を投げて無失点。実戦での感触はいかがですか。
山下 現段階ではいいんじゃないかと思います。ただ、まだやらないといけないことがあるとも感じていますので、これから出力が上がった中でどうコントロールしていくか。1年間やっていくスポーツですので。

今季の初実戦は2月25日の「球春みやざきベースボールゲームズ」のロッテ戦[SOKKEN]。新フォーム、新球を試しながら開幕に向けて出力を上げていく[写真=高原由佳]
──新フォームだけでなく新球のカットボールにも挑戦しています。狙いについては。
山下 三振を取るためにも速い変化球があったほうが幅が広がりますから、速い曲がり球を投げていこうと。球速帯も意識しているので、曲がり過ぎないことを注意しています。
──3月4日の広島とのオープン戦で、4回に
秋山翔吾選手に投じた3球目、インローに曲がり落ちるボールで空振りを奪いました。スライダーの軌道に見えましたが、素晴らしいボールでした。
山下 あのボールは良かったですね。カットボールです。結構、曲がっちゃったんですけど。自分のボールにはない変化なので、強みになると思います。ただ頼り過ぎると、今までの持ち味がなくなるので、あくまで見せ球ぐらいですかね。
──コーチや捕手からアドバイスされたことはありますか。
山下 森(
森友哉)さんに受けてもらって、「カットボールは自分のものになるまでは、あんまり投げ過ぎるなよ」と言われました。真っすぐが持ち味でもあるので、かわすボールには頼り過ぎるな、パワーでいけよということだと思います。森さんに言われてあらためて、真っすぐとカーブに時間を使っていこうと感じましたね。コーチの方には、自分がオフにやってきたことやどう投げたいかをきちんと伝えて確認をしてもらいました。
──今季はシーズン完走が目標になると思います。1年間投げ切るための課題を教えてください。
山下 トレーニングは抑えるつもりはないですし、ガンガンやっていこうと思っていますが、この1年はその倍ぐらいをケアに充てようと考えています。ケアは面倒な面もありますし、時間をつくらないとできないことなので、意外と難しかったりするんですけど、そこはきちんとやっていこうかなと。しっかりと考えながら、こなすだけにならないようにやっていきます。

自主トレから取り組んできたことを春季キャンプでも順調に消化。投手陣と切磋琢磨しながら充実した日々を過ごした[写真=桜井ひとし]
──前回のWBC開催時の23年は、開幕投手での一軍デビューでした。まだ発表されていない(3月13日時点)今季の開幕投手への思いを聞かせてください。
山下 23年とは状況は違うと思いますけど、今は任されないといけない立場にあると思いますし、お二方(
宮城大弥と
曽谷龍平)がWBCでいないので、そのときぐらいは頑張りたいなと思います。
──
岸田護監督はチームにとってのそれぞれの役割があるので、勝つために最善の選択をするとおっしゃっていました。
山下 本当にそうだと思います。正直、開幕戦がすべてではないですし、開幕戦に投げなかったピッチャーがどうなのかって言われると、何も変わらない。言われてない限りはみんなが開幕1試合目に合わせないといけないと思っています。
──開幕投手を任されるのはモチベーションも高まりますか。
山下 あまり関係ないですね。2試合目に投げようと、3試合目に投げようと自分の開幕に変わりはないと思っています。
──今季への意気込みをお願いします。
山下 ローテーションを1年間守って、結果を出しながら、最後は日本シリーズで優勝したい。打たれないことがチームの勝利に直結すると思います。ゼロに抑えたら勝ち星が増えるチャンスも最大限に広がりますし、防御率にもこだわっていきます。点を取られないことにこだわった結果が防御率なので、目標は1点台。どんな状況であっても、1年間投げて勝ち続けることが大切。チームを引っ張るとか、まだ自分でコントロールするのは難しいとは思うんですけど、1年間、気合を入れて投げ続けていきたいです。

5年間で培った経験値は大きな強み。チームの勝利のためにマウンドに立ち続けることを誓う[写真=宮原和也]
PROFILE やました・しゅんぺいた●2002年7月16日生まれ。福岡県出身。190cm100kg。右投右打。福岡大大濠高から2021年ドラフト1位でオリックスに入団。1年目はファームで先発として18試合に登板。2年目は腰痛を発症するも一軍のCS、日本シリーズでベンチ入り。23年は開幕投手で一軍デビューし、9勝3敗、防御率1.61で新人王に輝いた。25年はオープン戦前に腰椎分離症が再発して長期離脱。9月7日に復帰登板を果たし、CS初戦の先発にも抜てきされた。
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