内角を強気に攻める配球
シーズン最終盤で存在感を発揮している岸田
3年ぶりのV奪回は厳しい状況となったが、クライマックスシリーズ(CS)進出に向けて熾烈な争いが続く。
巨人の新たなキーマンとして期待されるのが、
岸田行倫だ。
侍ジャパンの一員としてWBCに出場した
大城卓三が、「不動のレギュラー」としてスタメンに出場していたが、8月中旬以降はその起用法に変化が。最近20試合で岸田が7試合に先発マスクをかぶっている。今季未勝利だった
赤星優志が先発で2連勝するなど好リードで支え、エース・
戸郷翔征が先発時にバッテリーを組むことも。8月17日の
中日戦(バンテリン)では先発の
菅野智之ら5投手の完封リレーを導いた。この7試合の先発マスクでは5勝2敗と勝ち越している。
「内角を強気に攻める配球が岸田の持ち味です。大城がマスクをかぶり続けると、配球面で偏りが見られてしまう部分があり、相手にも傾向を読まれやすくなる。岸田を起用することで幅が広がり、投手の新たな良さを引き出せる。強いチームは能力の高い2番手捕手が控えている。逆転でCS進出に向け、岸田の活躍がカギを握ると思います」
2番手捕手が確立されているチーム
正捕手に見劣りしない能力を持った2番手捕手を擁しているチームは強い。
阪神は
梅野隆太郎と
坂本誠志郎を投手との相性などを加味しながら併用。梅野が8月中旬に左尺骨骨折で戦線離脱したが、坂本がマスクをかぶり続けて奮闘して首位を快走している。
リーグ3連覇に向けて首位を突っ走る
オリックスも
森友哉、
若月健矢と球界を代表する2人の捕手がそれぞれの良さを体現している。森が故障で2度戦列を離れたが、戦力ダウンにならなかったのは若月の存在が大きい。エース・
山本由伸、今季9勝をマークしている
山崎福也が先発登板の際はマスクをかぶり、高いブロッキング技術と巧みなリードが光る。勝負強い打撃にも磨きをかけ、殊勲打を連発。2番手捕手というより、正捕手が2人いると言った表現がふさわしいだろう。
大城は強肩強打の捕手として知られるが、岸田も「強打の捕手」として定評がある。報徳学園では甲子園に2度出場するなど世代を代表する捕手として名を轟かせ、高校日本代表で同学年の
岡本和真とクリーンアップを組んでいる。プロ入り後も広角に打ち分ける打撃技術とパンチ力でアピールし、プロ3年目の2020年に34試合出場で打率.302、1本塁打、5打点をマークしている。
バッティングでもチームに貢献
6月30日の阪神戦ではサヨナラ本塁打を放った
今季は開幕一軍入りしたが1試合の途中出場にとどまり、4月14日に登録抹消。ファームで1カ月半の調整期間を経て6月2日に再昇格すると、同月30日の阪神戦(東京ドーム)で値千金の活躍を見せた。1対1で迎えた延長10回二死。代打で出場すると、相手右腕・
加治屋蓮のカットボールを振り抜き、右中間にサヨナラ弾を放った。
自身初のサヨナラ打で球場が大歓声に包まれる。ナインから手荒い祝福を受けた。お立ち台では、「(先発の戸郷が)必死に投げている姿をなんとかしてやろうという気持ちで、正直ネクストでメチャクチャ緊張していて、打席に行く前に阿部(慎之助)さんに『ホームラン狙ってこい』と言われて思い切ってスイングした結果が、こういう結果になって本当にうれしいです」と声を弾ませ、「そんなにチャンスは多くないので、こういう与えられた場所で力を発揮できるように準備している。思った以上の結果になったんですけど、チームに貢献できて、またこれからも頑張っていきたいと思います」とさらなる活躍を誓っていた。
苦労人の一発に、首脳陣も喜びはひとしおだった。
大久保博元打撃チーフコーチは目を真っ赤にして、本塁生還した岸田を思いきり抱き締めていた。週刊ベースボールのコラムで、「あの場面、代打ではほぼ本塁打しか期待されていない状況です。それでありながら見事なサヨナラ本塁打。『よくやった!』としか言えませんでしたし、涙が出てきました」と当時の思いを振り返っている。
岸田の台頭は、大城にとっても良い刺激になるだろう。残り試合が少なくなってきたが、両捕手が切磋琢磨してチームを上昇気流に乗せる。
写真=BBM