
▲大学で初めての経験となった寮生活、そして東京での暮らしにもすっかり慣れ、「大人の顔」になっている
2010年の甲子園ヒーローが、学生ラストシーズンを迎えた。興南高(沖縄)を史上6校目の春夏連覇へ導いたトルネード左腕は、中大4年生。昨年11月には新主将に就任し、気持ち新たに「プロ」を目指している。 取材・構成=岡本朋祐 写真=荒川ユウジ、BBM 中大の新年の練習始動日は1月14日に設定されていた。だが、昨年11月に主将となった新リーダーは、合宿所が開放された6日から汗を流している。寮から自転車で10分の球場での自主練習を終え、ロビーに現れた左腕の表情は吹っ切れていた。 ──周りの大きな期待が、負担に感じることはありませんか。
島袋 自分が考え過ぎてしまうところがあるかもしれないです。重いとは感じないですけど、勝ちたいという気持ちは、ずっと感じています。
――なかなか勝てない3年間でした。
島袋 それなりのピッチングができているわけでもないので、それが結果に比例していると思います。
──ストレスにはならないですか。
島袋 多少は……。焦りも、なくはなかったです。
――具体的に焦りとは?
島袋 勝ちよりも負けが先行している中で、勝ちたい気持ちが……。それが考え過ぎる結果に。今だから言えますが、1年時は慣れない東京、しかも初めての寮生活でホームシックになったこともありました。月に1回、高校同級生の仲間と会うことで、気持ちを切り替えていました。
――中大入学時には「大学でも日本一を目指す」と語っていましたが、東都の通算成績は把握していますか。
島袋 11勝17敗ですか……。
――3年時の甲子園で、春夏連覇で挙げた勝ち星と同じですが。
島袋 情けないというのはあります。シーズン終盤まで優勝に絡んだシーズンもない。東都のレベルの高さを感じますが、今後の財産にしたい。
──東都の宿命。1年秋には二部優勝との入れ替え戦も経験しています。
島袋 あれだけは味わいたくないですね。昨秋も間近までいきましたが、2度と行きたくない場所です。
――昨秋は勝ち点ゼロ同士の駒大との直接対決で、1勝1敗の3回戦で、島袋投手は救援勝利を挙げ、事実上の最下位回避へと導きました。崖っ縁で底力を発揮したわけですが。
島袋 何も考えず開き直ったというか、思い切り投げているだけでした。
――マウンドに上がったら全力を出し切る。甲子園を思い出した?
島袋 試合中は考える余裕もありませんでしたが、後で振り返ってみれば、高校時代に味わったあの感情、バッターとの1対1の対戦で、無我夢中で投げていたのかなと思います。組み立ての中で考えることは必要ですけど、勝負する際にはバッターだけに集中することが大事です。
――しかも自己最速150キロをマークしました。アドレナリンが出た?
島袋 スピードガンもたまに見ますが、その試合では……。出なかったものが出たことに関しては「成長」という形になる。ただ、逆にスピードを求めると自分のスタイルが崩れてしまうので、そこは考えないようにしています。コースであり、ボールの回転数を追求していきたいです。
――今後はプロフィルで「最速150キロ」と紹介されますが、149キロよりも、一つの達成感はありませんか。
島袋 冗談で周りとは「あと1キロだな」「なかなか出ないですね」みたいな話はしていたんですけど、あまり150キロに執着はありませんでした。
――聞くまでもありませんが、残り2シーズンで貯金して終わりたい?
島袋 春までに6つの借金を返済したい思いが強いです。そうすれば自ずと、優勝にも近づくと思います。
――それが色紙に書いた「飛躍」へとつながってくるのでしょうか。
島袋 大学に入ってそれを追い求めてやってきましたが、実現できていない。キャプテンにもなりましたし、いろいろな意味で今年は飛躍していかないと、道も変わってくると思う。
大学で投げて理解した
我喜屋監督の重い言葉 
▲2010年の甲子園で史上6校目の春夏連覇を遂げた興南高。夏の全国制覇も沖縄勢としては初の快挙だった
――さて、興南高・我喜屋優監督から受けた薫陶を覚えていますか。
島袋 日常的に言われていたのが、「当たり前のことを当たり前にやれ」「一生懸命やったと言えるのは、結果が出てからだ」と。今に置き換えても、まだまだ足りないと思います。
――3年前の卒業式では「周りの期待と、自分のやることは違う」と話したそうですが、まさにいま、島袋投手が直面している現実でしょうか。
島袋 そうかもしれません。「周りは甲子園優勝投手として見る中でも、お前は流されるな」と。それなりに結果も出るだろうと、深くは考えていなかったんです。高校時代のようなピッチングができれば、木製バットですし、もう少し勝てると思った自分がいました。つまずく自分はいないだろうと考えていたんですが・・・
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