メジャーの並み居るバッターを幻惑する10種類以上に及ぶ変化球。そのすべての球種が高精度を誇り、いまなお進化を続けている。ニッポンが生んだ最強の変化球マスター・ダルビッシュ有。その独自の投球概念とは――。 文=松井進作(編集部) 写真=AP、BBM かつて
日本ハム時代に、ダルビッシュ有の女房役を7年間にわたって務めていた
鶴岡慎也(現
ソフトバンク)。そんな彼がこんな話をしてくれたことがある。
「ダルの変化球の精度なら、もしかしたらスライダー、カーブ、フォークだけでも完封できる力があるかもしれない。ただ、アイツはそれを良しとしない。多くのボールを投げて相手バッターの反応を見て、いろんな打ち取り方を楽しみたいんですよね。場面によっては何もそんなリスクを背負って、そのボールを投げなくてもいいのに……と思ったときも正直何度もありましたよ」
そう苦笑いを受かべながらも、どこか楽しそうに、懐かしそうに話す鶴岡の言葉に、ダルビッシュというピッチャーの根底にあるエッセンスが散りばめられている気がした。
持ち球のスライダー1つ取ってみても、タテとヨコ以外にも曲がりの幅を数センチ単位で変え、スピードも意図的に自在に抑えたりと、分類していけば投げられる変化球は20種類近くにも及ぶ。さらに一つひとつのボールをストライクゾーンの上下、左右、前後(スピード)を使って“三次元”で配球し、相手バッターのスイングを狂わせていく──。その磨き抜かれた高い技術、多彩な変化球を生み出す繊細な指先の感覚もこの男の特筆すべき能力の一端でもある。
▲タテに曲がるスライダーの握り
▲ヨコに曲がるスライダーの握り
また、メジャーに行ってからも1試合あたりの球数が多く、エコノミカル(効率の良い)のピッチングという点ではまだ改善の余地があるかもしれない。しかし、ダルビッシュは純粋に投げること、相手バッターとの駆け引きを楽しむことをいまでも決して忘れてはいない。その姿は白球を初めて握ったころの野球少年のままであり、勝ちを求めながらも“魅せる”ことができるピッチャー。それが多くのファンを惹きつけているゆえんなんだとも思う。
本人も本誌のインタビューで「僕は変化球投手」と何度か口にしてきているが、そこで標榜しているのは決してかわすピッチングの技巧派ではないということ。時に最速159キロのストレートを封印しても、変化球だけでバッターと力対力の真っ向勝負ができる希有なピッチャー。それがキング・オブ・変化球マスター・ダルビッシュ有なのである。
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