もがき苦しむ22歳。高卒1年目から期待を寄せられ、昨季はキャリアハイの135試合に出場も、いまだレギュラー定着には至っていない。「俺は何をやっているんだ……」と葛藤する日々。それでも「一番・中堅」定着に向け、打撃フォームの改造に着手するなど、飛躍を果たすための光明を見いだしている。 取材・文=鶴田成秀、写真=BBM 悔しさしか残っていない。昨季は七番・中堅で開幕スタメンに名を連ねるも、翌日は先発から外れ、
坂口智隆(現
ヤクルト)、
宮崎祐樹、
中村一生らと併用が続き、日替わりオーダーを組まれた。そんな中でも自身最多となる135試合に出場し、78安打、31打点、8盗塁と、キャリアハイの成績をマーク。だが、53試合は守備固めでの途中出場で、規定打席に届かず。入団以来の課題である打撃は打率.234と、シーズンを通じて低空飛行。「一番・中堅」のレギュラー獲得を掲げ、強い気持ちで挑んだシーズンだっただけに、自分自身に怒りを感じていた。
「本当に悔しいシーズンでした。レギュラーとして試合に出続けて、チームでトップクラスの成績を残すことが目標でしたけど……。14年があっての15年なのに何も変わってない。むしろ悪くなっているんじゃないか。レギュラーもつかめなかったし、『まだ俺はこんな立場なのか。いつになったら活躍できるんだ』と、葛藤する毎日でした」 行き場のない怒りは、グラウンドで発散するしかなかった。試合前は誰よりも早く球場入りし、バットを振る。「10分打てるかどうか。時間も場所も限られているので」と、全体練習前後に室内練習場で約100球を打ち込み、試合に挑んだ。それでも、なかなか結果が出ない。
昨季、「練習をやっても意味ないんじゃないかと思ったときもありました」と語ったことがある。6月を終わって打率.196。現状打破の糸口をつかめないでいると、とどめていた感情が7月31日の
楽天戦(京セラドーム)で爆発した。3対3の同点で迎えた延長10回裏。二死二、三塁の好機で打席が回ってくるも、
松井裕樹の前に空振り三振。ベンチに戻ると、涙がこぼれ落ちた。
「あの試合の映像を見ると恥ずかしいです(笑)。自分は結構、感情が出てしまうほうなんですけど、涙が出てくることは今までなかった。野球人生で初めて。本当に人生で一番悔しい打席だったと思います。去年はしんどいシーズンだったので『ああ、こういうことなんたな』って。自分自身を見つめ直さなくてはいけないなって。現実を“ドーン”と、突き付けられた感じでした」 ただ、これで吹っ切れた。4日後の8月4日の
ロッテ戦(QVCマリン)で、シーズン221打席目にして放った初アーチは決勝のソロ本塁打。以降、8月は21安打を放ち、月間打率.304をマークした。
「やっぱり、涙を見せたことで『やらなくちゃいけない』って思えたし、良い意味でも悪い意味でも、自分を奮起させてくれました」 しかし、好調は続かず。9月以降は好球を見逃し、難しいボールに手を出しては凡打の連続。出塁率は.294、盗塁数も伸び悩み、一番での出場も16試合と“不動のリードオフマン”を目指した2015年は不本意なシーズンに終わった。
苦闘の中で見いだした「理想の一番打者」
苦しみをムダにはしない。もがき続けた中にも確かなヒントがあった。どん欲な向上心を持つ男は「人の考えを聞くのが好きだから」と、先輩たちが打席からベンチに戻ってくると、その打者に歩み寄る。
「今の打席は何を狙っていて、実際に何を打ったんですか?って聞きにいっていました。口にする人、しない人いますけど、活躍している人は絶対にいろんなことを考えてやっている。何かを意識して打席に入っている。それは絶対にしていることだと思うんで。だから聞きたい。次の日、同じ状況が僕の打席で回ってくるかもしれない。次の年になるかもしれないですけど、自分の引き出しに入れておくことで、整理して臨める打席が増える。そのほうが絶対に良い。僕の引き出しの一つにしまっておきたいんです」 なかでも自身の考え方を覆す打撃論を持っていたのが
小谷野栄一だ。昨季、通算1000安打を達成し、10年には打点王を獲得したバットマンの考えに衝撃を受ける。
「自分はクリーンヒットを狙い過ぎていたんです。だから打席で(体勢を)崩されるのがイヤだった。でも、小谷野さんは崩されることをイヤがっていないと言っていた。ヒットになればOKという考え方。根本的にそこが違うって思いました」 クリーンヒットの意識は高卒1年目から開幕スタメンに名を連ねるなど、寄せられる高い期待を身を持って感じていたから芽生えたもの。「打たなければ」という意識が強くなり「崩されたくない」という考えを招いた。その結果、打てるボールが限られて安打が出ない。だが、今では力を抜くことも覚えたという。
「理想を言えば、真っすぐ待ちで変化球に対応するのが一番。調子が良いときは何も考えなくても、そういうふうになっている。それをどれだけムラなくできるかが結果につながってくるんじゃないかと思う。肩の力を抜くことも大切なんだなって思うようになりました」 
4月7日のロッテ戦[京セラドーム]。1対1で迎えた9回二死二塁で打席に立つと、右翼越えのサヨナラ二塁打を放った。「あの打席は力まなかったというか、不思議と打てる気がした。二死でネクストバッターズサークルで待っていたんですけど、なぜか絶対に回ってくる気がした。しっかり準備して打席に入れたんです。相手は西野(勇士)さんだったんですけど何の怖さもなかった打席でした」。
とはいえ当然、相手は一流投手。変化球のキレも精度も並みではなく、ストレート待ちで変化球に対応するのは容易ではない。その対策と、小谷野の打撃論が一致した。
「今も常に真っすぐのタイミングで待っています。ただ『1・2・3』で打ちにいくんじゃなくて、『1・2の3』で打ちに行く。『の』で間を取ることで、崩されても思ったとおりに崩れる。そうすれば、ヒットも打てると思うんです。それが、今のベストなイメージ。小谷野さんの話を聞いたりして『良い崩され方』をしようと考えるようになりました。汚くても、どんな形でも良いからヒットを打つ。それも広角に。青木(宣親)選手(マリナーズ)みたいな打撃が理想。泥臭くヒットを打てるようになりたいんです」 野手間に落ちるテキサス安打でも、どん詰まりの内野安打でも、Hランプを灯せば安打に変わりはない。こだわるのは内容より結果だ。
「昨年を終えて、本気で一番を打ちたいと考えてから意識が変わったんだと思います。一番打者は勝敗を左右するポジション。だから、何でもいいからヒットを打つことが大事」 では、一番打者に定着するために必要なことは何か。そう問うと、少し間をおいて口を開いた。
「う〜ん……。自分の中で明確な答えは見つかっていないですけど、打つことだけじゃなくて、どれだけ塁に出ることができるかだと思います。なのに、今まではヒットばっかり狙っていた。フォアボールを取ったり、セーフティー(バント)だったりで、何としても塁に出る。そして、どれだけホームにかえってこられるか。それが一番必要だと思っています」 昨秋のキャンプでバットを寝かせるなど、打撃フォーム改造に着手。「理想の一番打者像」の意識はフォームにも現れ始めている。
「どんなボールにも対応できるようになるし、スムーズにバットが出せる。ヒットにできないボールもファウルを打てば、フォアボールも増えていく。そうすれば出塁率も上がっていくと思うんです」 
昨秋のキャンプでは打撃フォーム改造に着手。辻竜太郎打撃コーチ(右)らから指導を受け、連日バット振り込んだ
心技体でレベルアップ。あとは可能性にかける
目標と語る「シーズン20盗塁」を現実にするためにも、出塁は欠かせない。そのためには、技術以外にも“メンタル強化”が必要と考える。
「どんな結果でも流すんじゃなくて、振り返るべきだと思うんです。その結果はなぜ生まれたのか。それを考えていく気持ちが大事だと思うんです。昨年は流されていた。良いときは良いし、悪いときは悪い。その調子の波を自分で変えることができなかった。今年は、その調子の波を変えなくてはいけない。もっとメンタル的な部分を強化したい」 狙い球にも思考を凝らす。守備固めでの出場が多かった昨季。センターから投手の配球を見て思ったことがあった。
「いつも自分が打席に立った場合を想定して見ていたんです。そうすると、ファーストストライクが一番打つのが簡単だと思った。ピッチャーは初球にストライクが欲しい。初球ボールになれば、2球目は必ずストライクを取りにくるけど、投手は打たれたくない。だから変化球でストライクを取りにくるケースが多い、と。だから、ファーストストライクは逃してはダメだと思うんです」 
昨季は守備固めとしての出場が多い中でも、配球を考えるなど、常に“打撃向上”を意識し続けた
考えが尽きることがないのは、自身の飛躍のため。ましてや、今季は外野陣のライバルが増えた。ドラフト1位で大学ジャパンの四番打者・
吉田正尚、助っ人としてメジャー通算19本塁打を誇る
ボグセビックが加入。それでも「大事なのは自分自身。掲げている目標を達成できれば、誰が相手だろうと抜かれるとは思わない。自分に勝ったら、もう何も怖いものはない」と語る。最大のライバルは自分自身だ。
「今まで試合に出させてもらっているのも恥ずかしいくらいの成績だった。自分も、今年でもう6年目になります。例年以上に危機感を持ったシーズンになる。何が何でも一番をつかみたい」 鍛錬は欠かさない。意識も変わった。「あとは自分の可能性にかけるだけです」。断固たる決意で挑む2016年。苦闘のシーズンを糧に、今季こそ悲願を成就させてみせる。
PROFILE ごとう・しゅんた●1993年3月5日生まれ。群馬県出身。180cm80kg。右投左打。前橋商高から2011年ドラフト1位で
オリックス入団。俊足を生かした広い守備範囲を武器に1年目から開幕スタメンを果たす。以降、順調に出場機会を得て13年は117試合、翌14年は127試合に出場。15年はキャリアハイの135試合に出場も、課題の打撃が振るわずレギュラー定着には至っていないが、次代のリードオフマンとして高い期待を寄せられている。
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