ふがいない思いから新たな意識が芽生えた。リーグ新記録となる40セーブを挙げ、リーグ2位躍進の原動力となった2014年から一転、右足首を痛め、フォームを崩して不振を極めた昨季。その最大の原因は、気持ちの面だった。もっと、もっと強くなる――。“真っ向勝負”を掲げ、並々ならぬ覚悟で今季に挑む。 取材・構成=鶴田成秀、写真=松村真行(インタビュー)、佐藤真一、BBM 全球勝負のスタイルで
原因はハッキリしている。不振の理由は昨シーズン中に見つかっていた。だが、修正がきかない。その焦りから、心身のバランスが崩れ、結果は悪くなるばかり。最後まで悪循環を打破できないまま、シーズンを終えた。だからこそ、意識を変えて自主トレ、キャンプを過ごした。すべては迷いなく右腕を振り続けるために。 
昨季は気の迷いとフォームの乱れから不振を極めた。真っ向勝負を胸に今季、巻き返しを誓う
どの試合とか、どの場面とかじゃなくて、昨年は登板した全試合、自分が投げた全部のボールに納得していないんです。それだけ本当に悔しい1年でしたね。それは、自分の実力不足もあると思いますが、開幕直後につまずいてしまったことも大きかったです。言い訳にしてはダメなんですけど、4月(1日の
ソフトバンク戦・ヤフオクドーム)に一塁ベースカバーに入ったときに右足首を痛めて。それを1年間ずっと引きずってしまった。無意識のうちに右足首をかばって、今度は腰を痛めて、フォームが崩れて……。今までストレートで抑えられていたけど、簡単に打たれてしまった。
先発から転向して6年間もリリーフ投手として登板していますから、当然、相手は僕のことを研究してきます。そこで「相手打者の実力が上だった」と言ってしまえば、そこまで。「なんで打たれたのか」と、シーズン中からずっと考えていましたが、答えは分かっていました。ケガから始まった悪循環から、最後まで抜け出せなかったんです。
それでも試行錯誤の中で、配球を変えるという意味もあり、今まであまり使っていなかったカーブやスライダーも投げてみたんです。あっ、投げられるな、という感覚はあったんですけど、なかなか決まらないし、打たれることも多かった。なぜかと振り返ると、まだ腹をくくれていなかったんですよね。真っすぐなのか、変化球なのか。どっちだろう、という迷いの中で「えいっ」って投げていたんです。ケガをした右足首も気になるし、結果も出ないし、とにかくマウンド上で迷っていたんです。
1年間、全力で戦えたのか?そう自分に問いかけると、正直、疑問に思うんですよね。悔しいシーズンだったけど、悔やみ切れない。全力でやって打たれたなら、悔しさしか残らないんですけど、そこまでに至っていないんです。とにかく、ふがいないシーズンでした。
だから今年は迷うことなく投げることを第一に考えて、全球勝負球として使えるようにしたいと思っています。そのために、キャンプのブルペンではスライダーやカーブを多く投げ込みました。変化球の精度を上げるという狙いよりも、自信を持って投げられるようにするためです。
変化球主体の投球スタイルに変えるというわけではありません。僕は、これからもストレートにこだわりたい。昨年は154、5キロを出しても打たれたので、ただ速いボールを投げても意味がないのは分かっていますが、それでも僕はスピードを追求したい。空振りを奪える140キロの真っすぐも魅力ですが、見ている人が「速い」と思えるのはやっぱり数字で、相手に威圧感を与えることもできる。だから、質とスピード表示を両立させるストレートが究極の理想なんです。150キロ以上のボールを160キロに感じさせる真っすぐが僕の目指すボール。そこは変わらず追い求めていきたいです。
ストレートでも変化球でも勝負できれば、打たれる確率は低くなります。そのためにも、全球種を自信を持って投げること。もっともっと強い気持ちを持てるように、キャンプを過ごしました。
本来の姿を取り戻す
意識を変えただけで結果を残せるほど、プロの世界は甘くないことは心得ている。技術面でも改善すべき点を探す右腕だが、他人に意見は求めない。「強制されるのは好きじゃない」と、自分自身で納得いくまで問題点を突き詰める。右足首の故障でフォームを崩した昨季から立て直しを図る今季。本来のフォームを取り戻すため、自ら取り組んでいることとは――。 僕は自分から人にアドバイスを求めるタイプではないんです。人それぞれ、やり方は違うし、人のやり方が自分に合うとは限らない。体格だってフォームだって、人によって違いますからね。それぞれ自分のスタイルがあると思うし、何よりまずは自分が考えて納得することが大事だと思っています。
もちろん、監督やコーチなど経験豊富な方たちから助言をもらうことはすごく大事ですけど、結局は自分がどう感じたか、どう思うのか、何を目指して、そのためにどうしたいのかが重要だと思うんです。だから、とにかく自分で考えて実践するだけです。
オフの間には、昨年は何が悪かったのか、しっかり理解するために、試合の映像を見返しました。とくに打たれた試合を見たんですが、昨年はフォームが全然ダメだったんです。
僕はタテ軸で体を回して投げるタイプ。投げ下ろすイメージです。だから、球種もタテ回転系の真っすぐとフォークが武器になっているんですけど、昨年は横軸で体が横振りになっていたんです。その原因を探ると下半身でした。右足首を痛めたことで、軸足に重心を乗せ切ることができず、体が打者方向に突っ込んでいた。だから、すぐに体を開くように横に回転させるしかなくなっていたんです。その結果、ボールに力が伝わらず、棒球になって、痛打を浴びた。完全にケガからフォームを崩していたんです。
あらためて下半身の重要さを感じましたね。だから、自主トレやキャンプではしっかり走り込みをして、土台を作り直しました。フォームに関しては、悪い形に変わってしまったのを元に戻す。本来の姿に戻るために、どうするのか、ということを頭に置いています。
体のキレがなかったのもひとつの原因だと思っています。僕は体重とスピードは比例すると思っているので、年々、体重を増やしていっていたのですが、少し増やし過ぎたのかな、と。昨年は92、93キロぐらいあった体重を、今年は2、3キロ落としました。あんまり落とし過ぎると、スピードにも影響してくるので、そこはバランスを見ながら体の調整をしています。
気持ちに加えて、技術も見直して、心身ともに向上させて、昨年の悔しさを晴らしたい。今年は意識を変えて、フォームを元に戻すという思いが本当に強いんです。
真っ向勝負で挑む
13年から3年間務めてきたクローザーだが、今季は新助っ人・コーディエが加入し、その座は確約されていない。シ烈なポジション争いが展開されるが、「与えられたポジションで投げるだけ」と淡々と話す。そして、マウンドで貫く“真っ向勝負”の信念にブレはない。その強い思いを持ち続け、チームを悲願のリーグVへ導く覚悟だ。 ルーキーや新外国人など、新しく入った選手は正直、気になりますね。でも、良い投手が入ることはチームにとってプラスだし、負けたくないという思いはとくにありません。それよりも、まずは自分です。自分が良い投球をできれば、何の問題もないですから。
そもそもクローザーに対するこだわりもないんです。僕は与えられたところで投げるだけ。よく、抑えはプレッシャーが大きいと言いますけど、それは、どのポジションも同じ。プレッシャーのかからないマウンドなんてありません。いつ、どこで投げてもゼロに抑えることだけを考えています。
ただ、ポジションによって難しさは違います。09年まで先発をやっていましたけど、先発は立ち上がりが難しいし、打者1巡以降の配球のことや、攻撃に与えるリズムも考えないといけない。投球に加えて、試合全体の流れを作る難しさがあるんですよね。
でも、リリーフ投手は、そうじゃない。相手が苦手な球種やコースを突くんじゃなくて、自分の武器であるボールで、どれだけ勝負できるかが大事。リリーフは先発が作った試合の流れを意識してはダメなんです。先発をマウンドから下ろした時点でベンチは「お前に任せた」と言っているんですから。話が戻るんですが、だから全球勝負できないとダメだと思うんです。カウントを稼ぐ変化球とか、見せ球とかは、先発投手がするピッチング。リリーフは、自分の武器でグイグイ押していかないといけない。相手をかわすんじゃなくて、圧倒するような投球が必要だと思うんです。
そう思えたのは、負けている試合でマウンドに上がったことがきっかです。極端に言えば、例えば3点リードしている場面でマウンドに上がったら、2点は取られてもOKと思える。でも、負けている場面は、もう1点も与えられない。ベンチもそういう意図で、負けている場面で僕を送り出したと思うんですよね。だったら攻めるしかないし、変に配球を意識して、見せ球が甘く入って打たれたら絶対に後悔する。流れを壊すくらいの大胆さが必要。守りに入ってはダメだと思ったんです。
流れに左右されてはいけないのが、リリーフ投手。その役割を果たすためにも、今まで軸として使っていたストレートとフォークに加えて、カーブもスライダーも勝負球として使えれば、単純に武器が増える。リリーフ投手として、もっと強みが増えるんです。
そのスタイルを貫いて1年間フルで登板できれば、今年は自然と結果が付いてくると思っています。チームとしての目標は、もちろん優勝して日本一になること。個人としての目標は、そこに「自分がしっかり投げて」という条件が付きます。自分が活躍しないで優勝することほど、悔しいことはないですから。それに僕がしっかり投げれば、チームは上位に食い込んでいけると思っていますし、そう思わないといけない立場だと自覚しています。しっかり責任を感じて、どこのポジションだろうと、1年間投げ抜く。今まで以上に、もっともっと強い気持ちで、今年は戦っていきます。
PROFILE ひらの・よしひさ●1984年3月8日生まれ。京都府出身。186cm84kg。右投右打。京都鳥羽高から京産大を経て2006年大学・社会人ドラフト希望枠で
オリックスに入団。1年目から開幕先発ローテーション入りを果たし、7勝をマーク。08年に右ヒジを痛め、09年に602日ぶりに勝利を挙げ、10年から中継ぎに転向。11年にリーグ最多の72試合に登板して最優秀中継ぎのタイトルを獲得した。14年には、リーグ新記録となる40セーブで最多セーブを獲得するなど、直球を武器とした本格派右腕としてリリーフ陣を支える。