9月29日、本拠地・タマスタ筑後で中日に6対5で勝利すると、マウンドに歓喜の輪ができた。笑顔でその様子を見守っていた小久保裕紀二軍監督が、選手たちの手で3度、宙を舞う。選手一人ひとりが持つ“無限の可能性”を誰よりも信じ、力を注いできた指揮官。だからこそ、選手たちもシーズン終盤、優勝への思いを強くして一致団結した。そして、その思いはその先、一軍での飛躍にもつながっていく。 文=喜瀬雅則(スポーツライター) 写真=湯浅芳昭、BBM 小久保裕紀二軍監督
英才教育の一環
ウエスタン・リーグで3年ぶりの優勝を果たした
ソフトバンクは、今季から球界初の『四軍制』も稼働させている。選手層のさらなる底上げを目指し、まず三軍制を導入したのが2011年。
千賀滉大(現メッツ)をはじめ、
甲斐拓也、
牧原大成、
石川柊太、
周東佑京ら、チームの屋台骨を支える主力選手たちが三軍から生まれ、今季から
阪神に移籍した育成出身の左腕・
大竹耕太郎は12勝をマークするなど、激しい競争原理が働く環境を勝ち上がってきた選手たちの技術力、精神力のたくましさは、やはり、特筆すべきものがある。
“育成の裾野”をさらに拡大すべく、今季のソフトバンクは支配下選手が67人、育成選手54人の計121人という他球団に類を見ない大所帯で、その陣容をスタートさせている。二、三、四軍の選手たちは、試合を通して課題を見いだしながら、プロとしての体力もつけ、三軍、四軍の練習試合で結果を出し、初めてウエスタン・リーグの『公式戦』に出場できる『二軍』の枠をつかめる。特に育成選手はファームとはいえ、1試合に出場できるのは5人まで。支配下登録の若手選手も交えた二軍での公式戦に出るためのチーム内競争も半端ではないのだ。
ただ、そうした選手のレベル、現時点で目指すべきポイントなどは、当然ながら各自で違ってくる。今季、監督就任2年目を迎えた小久保裕紀二軍監督が、選手個々に対する声掛けの内容や、目標設定に対しての綿密なアプローチを、きめ細かく変えていたことは見逃せない。
今季、ウエスタン・リーグで4年連続の本塁打王、2年連続3度目の打点王で2年連続での2冠を獲得した
リチャードに関して、小久保二軍監督は「技術的には、彼にもう教えることはない」と評する。現役通算413本塁打、同じ右の大砲だった指揮官の言葉だから、打撃技術に関しては及第点なのだ。だから、リチャードが取り組むべきことは、試合の中での集中力の維持、投手に対するアプローチ、配球の読みなど、大まかに分ければ“心理面”が課題になってくる。
その“心の強化”という視点に立ってみると、象徴的なシーンがあったのが、7月7日の
オリックス戦(杉本商事BS)でのことだ。三番・三塁でスタメン出場したリチャードは・・・
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