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鍬原拓也(中大・投手) 「伝家の宝刀」でフル回転宣言

 

投手にとって“特殊球”を持っているのは、大きなアドバンテージだ。最速152キロを誇り、チェンジアップ気味に落ちるシンカーは、さらに効果的。ゲームメークを覚え、真のエースへと成長している。
取材・文=佐伯要

入学以降、リリーフ専門だったが、3年秋から先発を任され、確かな実績を残す。その表情からも自信が感じられる/写真=(R)URP


考え方が変わった、入れ替え戦での「1勝」


「立場が人を変える」という。鍬原拓也は、抑えから先発に転向したことで大きく成長した。

 1年春のリーグ戦デビューから3年春までは、主に抑えを務めていた。その当時は最速152キロを誇る真っすぐを力任せに、投げ込み、打者をねじ伏せる一方で、安定感には欠けていた。だが、昨秋のリーグ戦で先発を任されると、ストレートだけではなく、縦横2種類のスライダーやシンカーなどをうまく使うようになった。制球重視の投球で試合を作り、3勝(すべて完投勝利)を挙げている。投球スタイルが変わる前の自分を、鍬原は苦笑いで顧みる。

「球速ばかりを追い求めていましたね。打者ではなく、スピードガンと勝負していました。今の自分から当時の自分を見ると、『何をやっているんだ』と思います」

 ターニングポイントとなったのは、昨春のリーグ戦だった。中大は先発投手陣が崩れ、1982年以来34年ぶりとなる開幕戦からの8連敗。最終週の専大戦を待たずに最下位が確定した。

 青学大との一部二部入れ替え戦に向け、秋田秀幸監督(当時)は投手陣のテコ入れ策として、鍬原を抑えから先発に回すことを決断する。専大戦で先発としてテスト登板することになった鍬原は「自分で何かやらなくては」と考え、練習で打撃投手を買って出た。

 そこで打者の表情や打ち方を見ながら投げているうちに、球をリリースするときだけ力を入れて投げても、打球が詰まっていることに気づいた。旧チーム主将の松田進(現ホンダ)ら主力打者も口々に「力が入っていないのに、いい球が来ていたよ」と言ってくれた。

「そのとき『全力で投げなくても打ち取れる。このほうがいい』と、考え方が大きく変わりました。自分の結果よりもチームの勝利が優先。勝てる投手を目指すには制球重視だと、切り替えました」

 専大1回戦では5回2安打無失点で勝利投手となり、テストに合格。青学大との入れ替え戦では2回戦で先発し、4安打完封勝ちして一部残留に貢献した。

「責任感」が出ると行動にも積極性


 今年1月、コーチから07年秋以来となる指揮官に復帰した清水達也監督は、チームの危機を救った鍬原を振り返る。

「入れ替え戦で先発の役割を与えられて、『自分がやらなきゃ!』という気になったんだと思いますよ。抑えをやっていたときは自己満足的だったけど、先発になってからは信頼される投手の姿というのが見えてきて、責任感が出てきましたね」

 責任感が出ると、行動も変わった。例えば、ほかの投手に積極的にアドバイスするようになった。結果が出ていない投手には「オレはこうしたら結果が出たよ」と助言。キャッチボールの相手をしてくれている後輩が力んで、体の開きが早くなっているのを見ると、「リリースだけに力を入れるように意識すれば、体の開きが抑えられるよ」と教えた。

「今のままの自分じゃダメだ。自分を変えたい」という思いから、読書もするようになった。栄養学や心理学、体のしくみなどについて書かれた専門書を何冊も読んだ。今では小説も読むようになったという。

「大学の3年間で投手としても、人間としても成長できていると思います」。鍬原はそう言うと、うれしそうにニコリと笑った。

プロの動画で研究重ねた勝負球のシンカー


 北陸高時代から速球派右腕としてプロのスカウトが注目する存在だったが、プロ志望届を出さずに中大へ進んだ。ドラフトイヤーを迎え、「プロを目指してやっています。その気持ちは大学に入ったときからずっと変わっていません」と、言葉に力を込める。

 あるNPBスカウトは、鍬原についてこう言っている。

「投げっぷりがいい。抑えから先発になって、投球内容がよくなった。シンカーがあるのも強みですね。プロで勝っている投手には、シンカーを投げる投手が多いから」

 鍬原のシンカーは中指と薬指で球を挟み、抜くようにして投げるもので、チェンジアップ気味に落ちていく。高めの力ある直球に加えてこの「伝家の宝刀」があるため、打者は狙い球が絞りにくい。

 習得したのは中学時代だ。当時はサイドスローだったため、左打者対策として覚えた。中学3年春にヒジを痛め、フォームをスリークオーターに変えたが、シンカーのキレ味はそのままに保った。現在は福岡ソフトバンク攝津正や千葉ロッテ石川歩といったシンカーを得意とする投手の動画を見て研究を重ね、磨きをかけている。鍬原は「困ったときにシンカーで、空振りもストライクも取れる」と自信を持っている。

 最上級生となった今年は、エースとして各カードの1回戦で先発して勝つことが求められている。安定して試合を作るために「疲れてくると左肩の開きが早くなる」(鍬原)という欠点を修正しようと、この冬の間はネットスローなどでフォームを固めてきた。

「1戦目を任される以上、勝たないといけない。春は全チームから勝ち星を挙げたい。自分には1年春から投げている分だけ経験があるので、それを周りの投手に伝えて、引っ張っていきます。自分の姿勢で『ああいう投手になりたい』と思ってもらえる1年にしたいですね」

 エースとしての立場が鍬原をさらに成長させる。彼の言葉から、そう確信した。

最速152キロ。3年春までは力任せの印象が強かったが、同秋からは制球重視の投球をマスター。チームからの信頼も厚い/写真=BBM


PROFILE
くわはら・たくや●1996年3月26日生まれ。奈良県出身。176cm76kg。右投右打。大正小2年からホワイトイーグルスで投手兼遊撃手として野球を始める。大正中では橿原磯城シニアに所属し、投手兼外野手。北陸高では1年夏からベンチ入りし、2年秋からエース。2年秋は福井県大会8強。3年春は同4強、3年夏は同8強。中大では1年春のリーグ戦で早くも初登板を果たし、東都大学リーグ通算28試合、5勝8敗、防御率3.79
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