春11回、夏8回の甲子園出場を誇る享栄高だが、全国舞台は2000年春が最後だ。強豪復活をかける21年、プロ注目の3投手が切磋琢磨して努力を重ねている。 取材・文=小中翔太、写真=宮原和也 
左から菊田、竹山、肥田。3人の個性が融合すれば、ものすごい力になる
愛知の高校野球界をけん引してきた私学4強。平成以降、中京大中京高、東邦高、愛工大名電高が甲子園で優勝を飾った一方で、享栄高は2000年春を最後に全国舞台から遠ざかるが、今年は復活の気配が漂う。09年夏に中京大中京高の指揮官として43年ぶりの全国制覇へ導いた大藤敏行監督が18年4月に赴任し、8月から監督に就任。翌年4月に入学した世代の選手は、投打にタレントがそろい19年秋の1年生大会で優勝を果たした。同年代が最上級生となった昨秋は準々決勝で東邦高に敗れたものの、大藤監督が「中京で20年、享栄で3年ですけど、投手が良いだけに1番楽しみな秋だと思ってましたね」と話すほど、戦力は充実していた。21年の享栄高には140キロ台後半を投げ込む速球派右腕が3人いる。
豪華投手陣の中で柱として期待されているのが
竹山日向だ。ベンチ入りは2年秋が初めてだが、最速148キロはチームトップ。東邦高との準々決勝では1点を追う8回から8番手で救援し、ソロアーチを浴びたものの、この球も147キロを計測していた。大藤監督によると体つき、投げ方などは16年夏に甲子園で全国制覇を遂げた作新学院高・
今井達也(現
西武)に似ている。「30m走が3・7秒台で、身体能力が抜群に高い。遠投も120mぐらい投げるんじゃないですか。足も速いですし、バネもあり、肩も強い。すべての面でポテンシャルが高い。将来的に楽しみな投手です」(大藤監督)。

竹山日向
この高評価は食トレの賜物でもあった。入学時の体重は63キロ。中学時代に実績を残した同級生に追いつき追い越すため「1年のころは体が細かったので、まず体からつくろうと思って食べて運動して、その繰り返しでした」。特に伸びたのが新型コロナウイルスの影響による自粛期間で、体重を6キロ増やすと、それに伴い球速もアップ。昨年6月の練習試合では自身でも「結構、ビックリしました」と驚く140キロ台後半をマークし、チームの中での存在感が一気に増した。この冬場は「だいぶ体ができてきたので、次は体幹、インナーを鍛えています。もう少し球速を上げるのと、インロー、アウトローを投げ分けられるようになりたいです」と、課題に取り組んでいる。まだストライクを取ることに精いっぱいな面もあるが、空振りの取れる力強い真っすぐがコーナーに決まれば、奪三振ショーの幕が開く。
意識メラメラのライバル心
1年春からベンチ入りした。静かな闘志を胸に秘め、快速球を投げ込む竹山とは対照的に、気持ちを前面に押し出した豪速球でねじ伏せるパワーピッチングが持ち味。大藤監督が「指に掛かったときのボールは、すごいのが来ます」と話す最速146キロの真っすぐは球威抜群。ウエート・トレーニングでもチームトップの数値をたたき出し、ベース板の上での強さに自信を持つ。
竹山へのライバル心はメラメラで、竹山がブレークした練習試合の車中で、一言もしゃべらない。この試合で肥田も登板しており140キロ超えの球を投げていたが、それまで勝っていたはずのライバルは、明らかに自分より良い球を投げている。その現実を目の当たりにすると、帰寮後、食事を済ませるとそのままランニングへ。この冬も「オフシーズン明けの3月、最初の練習試合で153キロを目指しています。当初は150キロを設定していたんですけど、竹山が151キロを目標にしていたので、153キロにしました。夏には155キロを目指しています」と譲る気はない。
この強気の姿勢は長所でもあり短所でもある。カーッとなって投げたボールが甘く入って打たれたり、決めにいったボールがど真ん中に吸い込まれたりすることも……。2番手で救援登板した東邦高との準々決勝でもコントロールがアバウトになり2回1失点、手痛い追加点を奪われた。敗戦後は「秋の大会前に練習態度を注意され、そういうのが重なり、秋は負けたと思っています。主力選手がそういうことをやってたら勝てない」と練習に取り組む姿勢が変わった。進路については「最高のレベルで早くプレーしたい」と、高卒でのプロ入りを熱望する。
プロでもエースになれる素材
3投手で最も安定感のある
菊田翔友はゲームメーク能力に優れ、プロ野球選手だと
吉見一起(元
中日)タイプ。大藤監督は「竹山と肥田の中間。スピードとコントロールを両立させているのが菊田。試合をつくれますし、駆け引きもでき、考える力がある。打者を見ながら投げられる。145、6キロを投げるので、高校生ですとなかなか打てない」と話す。

菊田翔友
昨年8月に行われた大阪桐蔭高との練習試合では肩、ヒジが万全でない状態だったため、投げたイニングは短かったが敵将・西谷浩一監督も「好投手」と認めていた。東邦高との準々決勝では先発に抜擢されると「絶対、抑えてやろうという気持ちで、守備から攻撃の流れを良くしようと思って投げました」とマウンドへ。味方の失策絡みで2点を失ったが、5回までマウンドを守り試合を作った。打者としても遠くに飛ばせる能力に秀でており1年秋には四番を打ったほど。それでも「ピッチャーのほうが楽しい」と投手を選んだ。
あこがれの選手は、
ダルビッシュ有(パドレス)で「コントロール良く球が速くて変化球も多彩になりたい。小さいころからプロ野球選手になりたかったので、一択で頑張っていきます」。プロでもエースになれるだけの素材であり、練習を積むことができれば、まだまだ伸びそうだ。現在の持ち球であるスライダー、スプリットの高速系の変化球に加え、ヒジが癒えたらこの冬場でカットボール、ツーシームの習得を目指している。今春には欲しい場面で併殺を打たせる、より完成度の高いピッチングが見られそうだ。
NPBスカウトからも注目を集める3投手だが、昨秋の背番号は全員2ケタ。それぞれが万全の体調ではなく、エース番号を着けられなかった。背番号1をめぐる争いは、すでに始まっており「この冬はきちんと練習ができれば、3人とも間違いなく、150キロは超えると思います」(大藤監督)とハイレベル。春11回、夏8回の甲子園出場を誇る強豪復活のカギは、急成長中の右腕3人が握っている。
PROFILE きくた・とわ●2003年9月25日生まれ。愛知県出身。183cm86kg。右投右打。村雲小1年時に瑞穂サンボーイズで野球を始め、5年から植田ファイターズでプレー。円上中時代は東山クラブに所属し全国大会8強。享栄高では1年秋に四番を打った。最速146キロ。変化球はスライダー、スプリット。
たけやま・ひゅうが●2003年11月2日生まれ。愛知県出身。181cm 84kg。右投右打。西城小4年時にビスタベースボールクラブで野球を始め、守山中時代は愛知中央クラブに所属。享栄高では2年秋からベンチ入り。最速148キロ。変化球はスライダー、カットボール、チェンジアップ、スプリット、ツーシーム。
ひだ・ゆうしん●2003年12月27日生まれ。愛知県出身。170cm 85kg。右投右打。飯野小1年時に飯野ファイターズで野球を始め、創徳中時代は桑員ボーイズに所属。2年時に全国16強、3年時には
鶴岡一人記念大会中日本選抜に選ばれ日本一。享栄高では1年春からベンチ入り。最速146キロ。変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップ、スプリット。