自分の夢を実現させ、メジャーのマウンドに立った2023年。先発ではメジャーの洗礼を浴び、失格の烙印を押された。だが、周囲からの励ましもあり、中継ぎで活躍の場をつかんだ。気が付けばア・リーグ東地区首位のチームで腕を振っていた。そして人生初のシャンパンファイトも経験し、最後は挫折も……。誰にも経験できないような波瀾曲折の日々を過ごした。 文=佐井陽介(日刊スポーツ) 写真=水見美和子、Getty Images メジャーでの洗礼
藤浪晋太郎は鉄板にズラリと並んだ肉の焼き加減を確認しながら、トングを片手に照れ笑いした。
「別にボルティモアに来てから劇的に変わった、ということではないんですけどね。刺激的な日々を送れているかなとは思います」 すでに肌寒さが増していたカリフォルニア州・ロサンゼルスの9月5日深夜。エンゼル・スタジアムからほど近い日本風焼き肉店での一コマだ。
この日、オリオールズ救援陣の一角を担う「FUJI」は敵地エンゼルス戦の延長10回裏に登板した。リードは1点。タイブレークで無死二塁から始まる窮地で、右腕は圧巻のピッチングを披露した。
中飛の間に三塁進塁を許して一死三塁。内野陣が前進守備を敷くと、また一段とギアを上げた。九番・キャベージには4球すべて直球勝負。100.2マイル(約161キロ)の内角高めで空振り三振を奪った。なおも二死三塁。一番・シャヌエルを宝刀スプリットで空振り三振に仕留めると、感情をむき出しにした。
「バットに当たって前に飛ぶと、何が起こるか分からない。絶対に三振を取るつもりで。狙って三振を取りにいきました」 バッテリーを組んだ捕手・ラッチマンを指さし、跳びはねながら握った右拳を何度も振った。
エンゼルス・
大谷翔平が右肘じん帯損傷に加えて右脇腹の張りも訴え、グラウンドから姿を消していた一戦。意気消沈気味だった大谷目当ての日本人観光客たちを、高校時代はライバル関係にあった同学年の藤浪が興奮させた。
それは5カ月前の4月には想像もつかない光景だった。
◎
2023年春。藤浪はどん底からメジャー1年目をスタートさせた。
同年1月、ポスティングシステムを使用して
阪神からアスレチックスに移籍。開幕先発ローテ入りを果たしたところまでは順調だったが、デビュー戦で食らったメジャーの洗礼は今も記憶に新しい。
4月1日の本拠地エンゼルス戦に先発し・・・
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