
ヤンキースの大砲・スタントンは実は新しいスピード算出法で目メジャートップクラスの足の速さの持ち主であることが分かった
スタットキャストは、新しいテクノロジーを利用して野球の細かい動きを計測、データとして詳細にストックしているが、興味深いのは、サンプルのとり方を年々工夫していることである。
例えばスプリントスピード。野球は100メートル競争とは違うため、やみくもに走るわけではない。意図的に速度を緩めたり、速めたり。ではどこからサンプルを取るのか? スタットキャストが初めてスプリントスピードを発表した2017年シーズンは、ホームラン以外で、走者が少なくとも2つのベースを駈けたときをサンプルとし、走者が二塁にいて長打で生還のケースは除外した。なぜなら明らかにスピードを緩めるからだ。
走っている間の一番速い1秒間をトップスピードとして抽出。シーズン平均はその中からトップ50を選び出し、はじき出した。それが今季はより対象となるプレーを増やした。例えば緩いゴロが内野に転がったとき打者走者は内野安打にしようと必死で走る。それも加え、サンプルの中からトップ70を選び、平均とする予定だ。計算方を変えたことで、ナショナルズのトレア・
ターナーの昨季の数値は秒速8.93メートルから、9.24メートルに変わったそうだ。賢明な判断だと思う。内野安打を稼ぐときは、限りなく100メートル競争に近い走りだが、一塁から三塁へ走るときは外野手との駆け引きがあり、わざとゆっくり走って油断させ、いきなりトップスピードに上げたりする。
まだ100パーセント完璧とは言えないデータだが、比較できるのは楽しい。ベースボールサバントMLBダットコムでは日々ランキングを更新している。4月までで、1位はレンジャーズのデリノ・デシールズで平均秒速9.39メートル、2位はツインズのバイロン・バクストンで9.30メートルだ。MLB公式ホームページの記者でスタットキャストに詳しいデビッド・アドラー記者は「昔から球界には5ツールプレーヤーという言葉があるが、打って、投げて、走って、どれだけ優秀かはスカウトの20点から80点の間の採点と漠然としていた。それが今は具体的に、細かく数字が出るから、他者と比較しやすい」という。
大谷翔平は4月4日のインディアンス戦で8回裏アンドリュー・
ミラーから二塁ゴロで全力疾走。そのときのトップスピードは秒速9.08メートルだった。MLBの最速レベルに肉薄している。あの
イチローは4月28日のインディアンス戦の遊ゴロが秒速8.62メートルだった。MLBの平均は秒速8.23メートルと44歳でも速いと言える。
一方数字から、イメージが覆されることもある。「先日、ヤンキースのジャンカルロ・スタントンが内野安打を稼いだとき、一塁への速度は秒速9.02メートルで、エリートレベルに近かった。実は快足の持ち主だと分かった」とアドラー記者。
野球という競技から、どういう風にサンプルを取れば、より正確に個々のスプリントスピードをはじき出せるのか。スタッフだけでなく、時に野球ファンもアイデアを出しあい、年々微調整していくことで、信頼の置けるデータになっていく。そういった作業もまた楽しいのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images