
日本シリーズで猛威を振るった甲斐キャノン
今回は立体企画だ。
前編が、きょう発売の「週刊ベースボール」。こちらは『
小林誠司、まず隗(かい)から始めよ』というテーマで書いた。
巨人の
西武・
炭谷銀仁朗獲得の動き、
阿部慎之助の捕手復帰など、尻に火がついた小林誠司へのエールだ。
今回の動きは、
原辰徳新監督から小林への刺激であり、最終的には「打てる捕手」、つまりは「打てる八番打者」を求めているからだと思う。
あいつはコンスタントには打てないけど、時々打つから、原監督も、いまはまだ期待をしているはず。
ただ、あの監督は決断が早い。誠司、そんなに時間はないかもしれない。
実際、セのほうが捕手に打撃力が求められる。パはDHがあるけど、セは投手も打席に入らなきゃいけない。捕手が打てないと、打順9人のうち、2人が相手バッテリーの“オアシス”になってしまうんだ。
逆に言うと、90年代以降、セで黄金時代を築いたチームは
ヤクルトの
古田敦也、巨人の阿部慎之助、
阪神の
矢野輝弘、いまの
広島の
會澤翼、多少おまけするけど、
中日の
谷繁元信とバッティングのいいキャッチャーが必ずいた。対してパは、
城島健司というすごいヤツがいたけど、ほかは必ずしもそうとはいえない。
要は、DHがあれば、捕手の打撃の弱さはチームの致命傷にならないということだろう。好機では代打を使い、第2捕手につなぐチームも多い。
『隗から始めよ』は、大きな目標を達成するには、まず身近なところからという中国の故事だ。
小林の大きな目標は、ゆるぎなき巨人正捕手の座。でも、すぐ打てるわけじゃない。
そのために、まず守備の不安をなくすしことじゃないかな。打撃にも集中できるし、ベンチも安心して使える。ただ、リード面の評価はチームの勝敗からくるイメージもあるし、簡単に上げることはできない。
むしろ、小林の武器である肩の強さを生かし、スローイングをもっと磨けばいいんじゃないかな……、長くなったが、あたりで「週べ」(紙)は締めた。
俺が中国の故事を持ち出すなんて似合わないと思うかもしれないけど、流れは、もう分かっているよね。
隗と甲斐をかけたんだ。
ソフトバンクの
甲斐拓也。日本シリーズの甲斐キャノンはすごかった。6連続盗塁刺自体は、広島がムキになった面もあるけど、あのピンポイントへの送球は圧巻だった。
俺もいろいろなキャッチャーを見たり、バッテリーコーチの指導を聞いたりしたことがあるけど、甲斐のスローイングは、いわゆる教科書と違う。特に右手の使い方ね。
教科書どおりだと、キャッチャーは捕球後、どれだけ早くボールを送球姿勢、トップの位置にもっていくかが重要とされる。つまり捕球即、ミットの横あたりから手を入れ、ヒジを空けるようにトップに持っていく。昔、そういう捕手のポーズ写真がよくあったでしょ。
でも、甲斐の右手は違う。ミットの下方向から入っている。
スローイングの考え方がまったく違うんだろうね。
従来のコンパクトな動きで素早くトップの位置というより、甲斐はすべてが一連の動きで素早く、しかもダイナミックなフォームになっている。
捕球のとき、先に左足を前に出しているのも特徴だけど、捕ってからモーションが始まるんじゃなく、その前から始まっているという感じかな。
ただ、俺はだから甲斐の技術が最先端だ、ほかが古いと言ってるわけじゃない。
早めにトップにもっていくスローイングは、動きがコンパクトで少し窮屈ではあるけど、肩がムチャクチャ強い人は、このフォームから地面をぎりぎりの低い軌道でセカンドベースの少し上にドンピシャで決める。
近鉄でわが山陰の先輩、
梨田昌孝さんみたいに、最初から半身で構える人もいた。みんな基本はあっても、その先は自分の個性でやっていたんだ。
ほかのポジションもすべてそうだけど、プロは教科書どおりできて当たり前。その先、自分に合った技術があるかどうかで一流か二流が決まると言っていいんじゃないかな。
甲斐はそれを磨いて一流になった。小林も自分に合ったスローイング技術があると思う。いまも阻止率はそれなりに高いけど、そこに満足せず、自分に合った投げ方を早く見つけ、しっかり磨いてほしいね。
甲斐キャノンならぬコバズーカ誕生に期待だ。
写真=BBM