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早大の沖縄キャンプで指導する徳武定祐コーチは80歳だが、熱血指導は変わらない
打撃ケージの後方に「専用チェア」が用意されているが、座ることはほとんどない。昼から始まったフリーバッティングの約3時間、打撃コーチは鋭い視線で打撃フォームをチェック。身振り手振りで学生を指導していた。
2月28日から始まった早大沖縄キャンプに帯同している徳武定祐コーチが、変わらぬ熱血指導ぶりを発揮している。80歳。野球への情熱には、ただただ驚くばかりだ。
今もなお「伝説の名勝負」として語り継がれる1960年秋の早慶6連戦。早大は2勝1敗で慶大から勝ち点を奪い、9勝4敗、勝ち点4の同率として優勝決定戦へ持ち込んだ。このプレーオフで2試合引き分け(延長11回、日没
コールド)の後、早大は再々試合に逆転優勝を遂げている。当時の「三塁・主将」が徳武コーチだった。
早大卒業後、プロ(国鉄・サンケイ、
中日)で10年プレーし、引退後は中日や
ロッテのコーチ、ヘッドコーチ、監督代行らを歴任。プロのユニフォームを脱いだ後は99年、早大で同級生だった野村徹監督からの打撃コーチ打診を受けて以来、應武篤良監督、岡村猛監督の下、母校のために汗を流してきた。
小宮山悟氏が1月1日付で早大監督に就任。昨年11月11日から特別コーチとして指導してきたが、打撃コーチに徳武氏の就任を要請した。2人は深い縁で結ばれている。
小宮山監督が早大からロッテにドラフト1位で入団した90年、徳武氏は同球団のヘッドコーチ。また、岡村監督時代に、小宮山氏は特別コーチとして徳武氏の高い指導力を目の当たりにしていた。今回の就任のタイミングで小宮山氏が「一緒にやってください」とサポート役を求めると、徳武氏は快諾した。
「世間を見ても、80歳で指導している人はない。人間としてありがたいこと。(体の負担がかからないように)小宮山監督は私がやりやすいよう、気配りしてくれる。佐藤(孝治)助監督も支えて、私は目の前の仕事にまっとうしていく。小宮山監督には石井(連藏)監督、野村を超える重みある監督になってほしい」
徳武コーチが早大時代に指導を受けた石井連藏監督は2期(58~63年、88~94年)にわたり早大の指揮官を歴任しており、小宮山監督の恩師にもあたる。だからこそ、世代を超えた絆がある。また、徳武氏の同期のマネジャーである黒須睦男氏は小宮山監督の義父という関係もあり、徳武コーチは「私にとっては、子どものような存在」と語る。
かつて
鳥谷敬(現
阪神)、
青木宣親(現
ヤクルト)、
茂木栄五郎(現
楽天)、
重信慎之介(現
巨人)らを育成してきた実績がある。2015年秋以来リーグ優勝から遠ざかる早大にあって「打棒・早稲田」の復活への手腕が期待されるところだ。結局、この日もフリー打撃中は一度も腰かけることはなかった。80歳。真っ黒に日焼けした精悍な顔つきが、沖縄キャンプの充実ぶりを物語っている。
文=岡本朋祐 写真=BBM