ヤクルト監督時代にID野球を掲げ、在任9年間で4度のリーグ優勝を飾った野村克也氏いわく、優勝するための条件は「連敗しないこと」だという。3連敗したあと5割に戻すには3連勝すればいいが、それは口で言うほどたやすくはない。
「同一カードの3連敗は絶対に避ける。悪くても1勝2敗で、常に勝率5割を基本として戦っていく。5割からどれだけ貯金を上積みできるかが重要になる」
そのためにも大切なのはやはりディフェンス力。野球は0点に抑えれば100パーセント負けないスポーツ、も持論だ。
「だからチーム全員が、投手も、野手も、裏方も各自の持ち場で、その試合を0点に抑えるべく努力する。そこで全員が同じ方向を向いているかどうが、チーム状態を決めるのだ」
人間には楽をしたい本能があるから「点を取らなければ勝てない」と考えて、攻撃野球を好むようになる。しかし、チームが苦しいときに、いかに1対0で逃げ切るか。そのような勝ち方で絶不調の時期を乗り越えられたチームこそ、優勝という栄冠を得られるという。
「ペナントレースはマラソンと同じ。マラソンは42.195キロの終盤に差し掛かる35キロあたりが一番苦しい。ペナントレースなら8、9月。その苦しい時期に1対0で勝つ試合運びができるよう、キャンプの時点から態勢をつくっておかねければいけない」
そこで不可欠なのは絶対的エースだ。
「ただ、エースはトータルで20勝すればいいってもんじゃない。苦しいときに1対0でしのいでくれるのがエース。チームの鑑であり、チームの苦境を救うのが真のエースだ」
監督業は奥が深い。さらに、新人監督が陥りやすいワナがあるという。それは“動く”こと。本来、監督というのは何もしなくても、ただベンチにいるだけでも、その存在感ゆえに立派に監督業を果たしているものだ。しかし、新人監督は何かをしないと監督業を怠っているような錯覚を起こす。そして、墓穴を掘るのだという。
「ランナーが出てバントならともかく、エンドランや盗塁など、何かしらしないと監督をしている気になれないんだな。監督が張り切り過ぎると動かなくてもいいときに動いてしまいがち。しかし、野球は状況判断が大切。動く必要のないときもあるのだから、その見極めには気をつけたほうがいい」
試合が始まったら主役は選手。監督は基本的にベンチでジッと戦況を見つめているだけでいい。ただ、「これは少しまずいぞ」というときにだけ動く。プレーしている選手たちが間違った方向に向きかけたとき、その方向指示器を正してやる。それがベストだという。
開幕が近付いてきているが、監督の采配からは目が離せない。
文=小林光男 写真=BBM