
代打ホームランを放ち、笑みを浮かべた前田智
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわってその日に何があったのか紹介していく。今回は2007年7月20日だ。
前田智徳(
広島)が笑った。野球道を極めんとする「球道者」が、球場で滅多に見せない笑みをたたえていた。
オールスター第1戦(東京ドーム)。7回裏、セ・リーグの
ラミレス(
ヤクルト)が0対0の均衡を破る2ランを放った後、代打で前田智が登場すると地鳴りのような歓声が沸き起こった。高まる期待感。3球目、
馬原孝浩(
ソフトバンク)の内角低め148キロのストレートを巧みにすくい上げると、打球は右翼席へ飛び込んだ。6度目のオールスターで初の一発。手を叩き、笑顔とともにガッツポーズで喜びを表現。ホームにかえってくる前田智を、ファンは万雷の拍手で迎えた。
「落合(
落合博満。
中日)監督に“楽しめよ”と言われていたので。まさかホームランになるとは……」
体調は万全ではない。5月中旬に右ふくらはぎを痛めた。スイングの際、踏み込んだだけで右足が痛み、振り込むことができなくなった。満身創痍の状態がダイレクトに成績に響く。前半戦終了時点で打率.260、9本塁打、37打点。2000安打に残り31本と迫っているが、成績だけを見ればオールスターに選出される選手ではない。
だからこそ、ファン投票の外野手部門で1位になったとき「非常に複雑ですが、選んでいただいた以上は責任を持って役割を果たしたい」と語っていた。ファンの思いに応えるため、試合当日は誰よりも早く球場入りし、入念に汗を流した。準備だけは怠らない。それもファンへの責任。そして、代打ホームランという最高の結果で責任をまっとうした。孤高の天才打者は案外、笑顔が似合っていた。
写真=BBM