日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。 「ブラバン力」が逆転勝利へと導いた

全国屈指の強豪校・習志野高校吹奏楽部は一塁アルプスに170人の部員が陣取って、大演奏を繰り広げた。この「ブラバン力」が逆転勝利につながったと言える(写真=田中慎一郎)
習志野は沖縄尚学との1回戦を、延長10回の末に制している(5対4)。
4対4で迎えた10回表一死二塁。和田泰征(2年)が放った中越えの当たりで、二走・櫻井亨佑(2年)が勝ち越しのホームを踏んでいるが、そこには真相が隠されていた。
仮に外野からの中継プレーが本塁返球であれば、微妙なタイミングに映った。しかし、沖縄尚学の守備陣は、打者走者の三塁進塁を阻むためのプレーを選択。つまり、習志野の勝ち越し点をその時点で許したのである。
習志野・小林徹監督から全幅の信頼を寄せる三塁コーチ・佐々木駿太(3年)は明かす。
「ボールのつながりが4つ(本塁返球)ではなく、3つ(三塁返球)のラインだったんです。(センターからの中継に入る)相手の二塁手が内野の状況を見ていなかった。だから、迷わずに回しました」
なぜ、このプレーが生まれたのか。佐々木は続ける。
「応援(の音量)が大きくて、内野の声がつながらなかったのではないでしょうか。結果的にこの1点が明暗を分けました。見えない部分でチームに貢献できたのであれば、自分のポジションとしてはこれ以上、うれしいことはありません」
しかし、ここには“オチ”があった。
「ランナーコーチの立場からすると、あまりにウチの吹奏楽部の音が大き過ぎて、指示が伝わりづらいこともあるんです(苦笑)。でも、そこは自分がジャスチャーなどで工夫すればいいこと。本当にありがたいです」
一塁アルプス席では、同校吹奏楽部170人による大演奏が繰り広げられた。全国大会常連の名門校。習志野の伝統の「美爆音」は準優勝に輝いたセンバツに続き、今夏もパワー全開。実はこの延長勝利には伏線があった。
1点を追う9回表、最後の攻撃になるかもしれない。習志野のアルプス席からは、同校の名物応援歌『レッツゴー習志野』がイニング冒頭からエンドレスで流れた。一死一、三塁から
角田勇斗の左前適時打で追いつくと、狂喜乱舞の大声援は一塁アルプスからネット裏、ライト席、三塁側にかけても派生し、リズムに合わせた手拍子が巻き起こった。
主将・竹縄俊希は言う。「応援の力もそうですが、自分たちのあきらめない姿勢が、場内の空気を変えたのかもしれません」。負ければ終わりの大会である。1点をめぐる攻防、そして逆転劇こそが甲子園の醍醐味だ。大会4日目。ようやく夏らしいムードが、グラウンドとマンモススタンドに充満してきた。
文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)