2020年9月7日、
巨人の
澤村拓一が
香月一也とのトレードで
ロッテに移籍した。ここ数年は不調に陥っていたが、長らくチームの投手陣を支えてきた存在だっただけに、移籍に驚いたファンも多いだろう。実は過去にも、澤村と同じようにドラフト1位で入団して新人王を獲得した選手で、トレード移籍した選手が1人だけいる。それが現在巨人の二軍投手コーチを務める
木佐貫洋だ。木佐貫の入団から現役引退までの足跡をまとめてみた。
1年目からエース級の活躍を見せて新人王を獲得

1年目に2ケタ勝利を挙げて新人王に輝いた木佐貫
亜大のエースだった木佐貫は、東都大学リーグに31試合登板して通算12勝8敗、防御率1.80と活躍。世界大学野球選手権日本代表にも選出されるなど、複数のプロ球団に注目される存在だった。迎えた2002年のドラフトで、東海大の
久保裕也とともに自由獲得枠で巨人に入団。背番号は21。前年まで
チョ・ソンミンが付けていた番号だった。
新人ながら即戦力として期待された木佐貫は、オープン戦でも好投を続け、当時の
原辰徳監督から「オープン戦のMVP」と評された。この結果を受け、木佐貫は新人ながら開幕ローテーション入りし、2003年3月30日に行われた
中日との開幕3戦目で初登板・初先発を記録。しかし、この試合はわずか1回1/3を投げて5失点と早々にKOされてしまう。
ほろ苦い初先発を経験した木佐貫だが、その後も思うようなピッチングができずに3戦続けて勝ち星なし。それでもエースの
上原浩治やベテランの
桑田真澄のアドバイスを受け、徐々に調子を取り戻した木佐貫は、4度目の登板で念願の初勝利を記録。するとここから快刀乱麻の活躍を見せ、1年目ながら監督推薦でオールスターにも出場した。
木佐貫はルーキー1年目の後半戦も一時防御率リーグトップに立つなど調子を維持し、最終的に25試合に登板して10勝7敗、防御率3.34を記録。さらに完封はリーグトップの2度達成した。その結果、亜大で同期だった
広島の
永川勝浩を抑え、新人王に選出される。
復活と不調を繰り返した巨人時代
1年目の活躍で先発ローテーションの一角となった木佐貫だが、2年目は苦しいピッチングが続いた。特に序盤の立ち上がりで打ち込まれる試合が多くなり、コントロールを乱す場面も増加。先発として試合がつくれないことから、シーズン中盤に抑えに配置転向となった。8月後半から本格的に抑えを任されるようになるが、抑えでも失点が重なり、復調に至らずに9月末に負傷で離脱。前年の新人王としては物足りない結果に終わってしまう。
翌2005年も不調は続き、シーズン序盤からリリーフを任されると期待された活躍ができず。7月に右肩甲骨下の手術を行うことになり、ほとんど登板できないまま0勝1敗5セーブの成績でこの年を終えることとなる。復活が期待された2006年も失った輝きを取り戻すことができず、二軍暮らしが続くこととなった。
正念場となる2007年。木佐貫は背番号を41に変更し、心機一転でシーズンに臨んだ。序盤に上原など主力が離脱したこともあってローテーション入りを果たすと、4月12日の広島戦では2004年以来となる白星を記録。自己最多となる12勝をマークし、チームのリーグ優勝に貢献。完全復活を果たした。
ところが2008年、2009年と再び不振に陥り、2009年オフにトレードで
オリックスへと移籍。新人王を獲得した巨人のドラ1選手がトレード移籍するのは史上初だった。
新天地では1年目に活躍するが……

オリックスでは3年間プレーし、通算17勝28敗だった
異なるリーグでのプレーとなった木佐貫だが、オリックス1年目の2010年はこれまでの不振がうそのように序盤から好投を続け、4月は4勝を挙げて初の月間MVPを獲得。後半戦は味方の援護が少なかったために白星を積み重ねることはできず黒星が先行。最終的に10勝を挙げるも、12敗と崩れる試合が多く失点もリーグワーストだった。
オリックスでは先発投手として起用され、要所要所で好投を見せたものの、2010年、2011年、2012年と3年連続で負け越し。その結果、2013年1月にトレードで
日本ハムに移籍。この年は先発でチームトップタイの9勝と活躍し、史上12人目となる全球団勝利というレアな記録も達成している。

日本ハムには3年間所属し、2015年限りでユニフォームを脱いだ
ところがオリックス時代と同様に好調を維持できず、2014年も出場機会がほとんど得られなかった。2015年9月には、チームから構想外となることが伝えられ、この年限りでの現役引退を決断。シーズン終盤のロッテ戦で1イニング限定で登板し、現役最後のピッチングを披露。打者3人に対して2奪三振ノーヒットの記録を最後にマウンドを去った。
現役を引退した木佐貫は、2016年にスカウトとして巨人に復帰。2018年のドラフトで3位指名された
直江大輔を担当した。2019年からは二軍投手コーチとなり、現在も後進の育成に尽力している。
木佐貫と同じように、ドラ1新人王でありながらも他球団にトレード移籍となった澤村。幸いにも新天地のロッテでは好投を続けており、早くもチームに欠かせない存在になりつつある。今後澤村がどのような活躍を見せるのか、巨人ファンとしても目が離せないのではないだろうか。
文=中田ボンベ@dcp 写真=BBM