開幕戦で辰己(右)は涌井とともにヒーローに選ばれ、お立ち台では大先輩をいじる一幕も
今季の
楽天を盛り上げるのは
田中将大だけではない。開幕戦で初回先頭打者初球本塁打(パ・リーグでは1970年以来)を放った楽天のリードオフマン・
辰己涼介がプレーと独特のコメントでファンを笑顔にする。
辰己は2019年のドラフト1位で入団。トリプルスリーを狙える選手として期待されるも、昨年までの2年間の盗塁数は24で打率も2割台前半にとどまるなど、ここまでは目立った活躍を見せられていない。だが、昨オフの自主トレを経て「理屈に沿った打撃を勉強して信じるものができた」と手ごたえを得ると、オープン戦では打率.385をマーク。進化した姿で一番・中堅のポジションを確立しつつある。外野には
田中和基や同期の
小郷裕哉ら同じ俊足巧打を武器とするライバルがひしめいているが、今季こそ不動のポジションをつかみたいところだ。
だが注目してほしいのはそのプレーだけではない。ヒーローインタビューでのコメントもクスリとさせられるものがある。兵庫県出身で笑いには貪欲。さらに「得意なことをするのに緊張する必要はない」と人生初のお立ち台でも緊張しなかったという辰己。その堂々たる立ち居振る舞いで球場の笑いを誘うシーンも多い。
今季の開幕戦では
涌井秀章とともにお立ち台に上がり、大先輩をいじる一幕もあった。オープン戦最後の登板となった3月19日の
ヤクルト戦(神宮)で4回途中8失点だった涌井は自ら「前回ボコボコにされたので修正できてよかったです」とコメントすると、辰己は「前回、涌井さんが炎上したのでどうしても先に点を取ってあげたいという気持ちがいい結果を生み出したのかなと思います」と真顔でコメント。さらに「涌井さんも前回炎上したということで不安だったと思うんですよね」と続け球場を沸かせると、涌井もこらえきれず笑みをこぼした。本気なのかボケなのかが分からない独特の空気感で話す辰己だが、球場に笑いが起こるとホッとした表情を見せるのもまた見どころと言えるだろう。野球と同じように得意とする「しゃべり」でもファンの心をつかんでいきたいところだ。
俊足巧打に加え長打も武器とする辰己。今季こそ3割30盗塁、2ケタ本塁打をクリアできるか。さらに勝利に貢献する活躍でより多くのお立ち台に上がり、球場を沸かせてほしいところ。背番号8の攻守走はもちろん、そのコメントにも注目だ。
文=阿部ちはる 写真=井沢雄一郎