3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 逆王シフト?

大洋・青田監督
今回は『1973年5月7日号』。定価は100円。
大洋が開幕から好発進した。
率いるは、ジャジャ馬とも呼ばれた奔放な勝負師・
青田昇監督。4月14日の
阪神戦(甲子園)のあと、本拠地・川崎での
中日戦に連勝し、3連勝スタート。ちなみに、当時はセンバツのあとの開幕だったが、雨の多い時期で雨天中止が相次いでおり、もっと前から始めたほうがとも言われていた。
21日からは同じく川崎での対
巨人3連戦だ。
第1戦は大洋が
坂井勝二、巨人が
高橋一三の先発で1対4と敗れた。実は、すでに2勝を挙げていた絶好調のエース・
平松政次の中2日での先発が予想されていたが、青田監督があえて外した。
理由は2戦目に先発が予想された
堀内恒夫に平松をぶつけるためだ。
青田監督は言う。
「巨人のエースは例え調子が悪くても堀内。たたけば気分的にも違ってくる」
巨人の主砲・
王貞治に対しても心理戦を仕掛ける。逆王シフトだ。ライト側ではなく、外野全員がレフト側に寄った。青田監督の言葉がいい。
「今の平松のスピードなら王がいくら引っ張っても引っ張りきれんからな」
実際にはライトからレフト方向への風も計算してだったようだが、青田らしい見事な挑発だ。平松の投打の活躍もあって、結果は見事な勝利。
ヘッドコーチでの実績はあるが、監督としては結果を残せなかった青田。おそらく今のCSのような短期決戦で指揮を執れば強かったのではないか。
勝負師と言えば、大洋との開幕戦に敗れた阪神の先発・
江夏豊にも感じる。
この年は左ヒジ痛に苦しみ、オープン戦では自慢のスピードも影を潜めた。開幕の大洋戦の登板は避けるのでは、と見た関係者も多かったが、マウンドに上がった。
結果は3失点で負け投手になったが、試合はつくった。
江夏らしかったのは第1球だった。
外角低めの好調時のような素晴らしい真っすぐ。スコアラーから「変化球でかわしてくるはず。カーブを狙え」と指示されていた大洋ナインは少なからず動揺した。
青田監督も、
「江夏というのは利口な子やな。あの第1球がなかったら、あの程度の江夏なら簡単に攻略できたはずや」
と称賛した。
江夏は試合後、「打たれたんやから調子は悪かったんやろうね」とボソリ。
阪神・
金田正泰監督は、
「開幕で負けたって江夏はエース。この敗北はどこかできっと、おつりがくるほど取り返してくれるはずや」
と余裕の表情で語った。
江夏はこうも言う。
「去年だってヒジが悪かったやないか。それを投げながら治した。今年も同じことや。人間弱音を吐いたら終わりや。開幕戦での借りは、必ず倍にして返すつもりです」
倍返し宣言だ。
実際、江夏は中4日で投げた19日の
ヤクルト戦で勝利投手に。ヒジの痛みで内容は今一つながら127球の完投だった。
「ヤケクソや。でも、勝ててほんまよかった」
汗まみれの笑顔で言う。
何だろう。この時代の男はみんな負けず嫌いで、そして熱い。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM