読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.高校でピッチャーをしています。スライダーピッチャーでカウント球にも決め球にも使うのですが、多投するとヒジが下がり、ストレートにも影響が出るから、注意するように言われました。今のところ、そのようなことはないと思っていますが、どうしてそうなるのでしょうか。ヒジが下がった場合の不都合な点、また、そうなってしまった場合の修正方法を教えてください。(北海道・16歳)

阪神時代の藪氏のピッチング
A.理想は下から肩、ヒジ、ボールと高くなっていくこと。ベースに向かって変化していくようなイメージを持つのも◎ 質問の方はオーバースローと仮定して話を進めます。まず、スライダーを「横」に曲げようとすればするほど、ヒジは下がりがちです。投げ方的に、そのほうが曲げやすいのは事実で、試合の中で、「ここで大きく曲げたい」と安易にヒジを下げていくうちに、元のフォームに戻しづらくなってしまいます。ストレートに影響が出るのはリリースポイントが低くなり、角度を失うからです。怖いのは故障で、ヒジが肩のラインよりも下にあると肩に大きな負担が掛かり、その蓄積で故障につながる可能性が高くなります。
理想は下から肩、ヒジ、ボールと高くなっていくことで、今はスマホなどでも簡単に映像を撮ることができますから、良いときのフォームを記録しておいて、実際のフォームとすり合わせるのがヒジが下がらない予防になり、仮にヒジが下がってしまった場合の修正方法としても簡単で良いのではないでしょうか。感覚、イメージと実際の動きはかけ離れていることが多く、映像で見て自分を知ることで、その感覚を研ぎ澄ましていくことにもつながります。肩とヒジの位置と、ボールの場所、この位置関係を間違えないようにして、スライダーを投げていけば、ヒジが下がることはありません。
今はいい時代です。設備が整っているところでは、ブルペン横に設置しているモニターに、今投げた映像が瞬時に映し出されるところもある。われわれの時代はカメラマンさんに撮ってもらい、連続写真でチェックするなど手間が掛かりましたが、自分を客観視できるこのような器機を、積極的に活用しない手はありません。
なお、ヒジを下げないとスライダーが曲がらないタイプなのであれば、スライダーのイメージを変えることも大切だと思います。真横に曲げるのではなく、タテの変化(通称タテスラ)、ベースに向かって変化していくようなイメージを持ってみてはどうでしょうか。このタテのスライダーを投げれば、腕の振り(つまりヒジの位置)が影響を受けることはなくなるはずです。変化的には、真っすぐに近い、カットボール系のスライダーになると思います。スライダーと言っても、今はさまざまな種類があります。
ダルビッシュ有(パドレス)選手はスライダーだけで8種を操るとも。選手それぞれ同じ変化ではなのですから、自分に合ったスライダーを見つけてください。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。
『週刊ベースボール』2021年7月5日号(6月23日発売)より
写真=BBM